■『餓狼伝』少し耐えられたら永遠に耐えられる
原作:夢枕獏さん、作画:板垣恵介さんによる『餓狼伝』は、どちらかというと現実に近い格闘漫画だ。しかし、そんな作品にもロマン理論は存在した。
その1つが空手家である片岡輝夫が提唱した、痛みに耐える理論である。
片岡は“人間凶器”として恐れられる存在で、肉体の強化を徹底追求する。拳だけでなく、あらゆる肉体の部位を痛めつけることで強くしていった。その練習方法は、砂利を詰めた袋に拳や足を打ち込んだり、顔面に砂利袋を叩きつけたりと、到底常人には耐えられない特殊な内容だった。
「そんな修練にどうして耐えられるのか」と問われた片岡は、「少しだけ耐えられるということ── それは永遠に耐えられるということ」と返している。初めて読んだとき「そんな馬鹿な」と思ってしまったし、単なる精神論に思えた。
しかし、あらためて考えてみると「そこまでぶっ飛んだことを言ってるわけではないのかも」と思わされる不思議な魔力がある。たしかに少しだけでも耐えられたなら、その耐えを何度も繰り返すことで永遠に痛みに耐えられるという理屈には謎の説得力があった。
限界を超え、超人的な肉体を手に入れるためには、こうした常識破りの覚悟が必要ということなのだろう。
■『魁!!男塾』核を見極めれば一撃で破壊できる
最後は、宮下あきらさんによる『魁!!男塾』に描かれたオリジナル理論だ。本作といえば「民明書房」の存在が有名で、いかにももっともらしいフィクションの雑学を教えてくれる。当時の読者の中には、民明書房のホラ話を信じてしまった人もいたほどである。
その中にあった雑学の1つが、「ブルッツフォン・ポイント」と呼ばれるものだ。これはあらゆる物体に存在する「核」のことで、そのブルッツフォン・ポイントに力を加えれば、どれだけ硬い物体でも破壊が可能だという。最強の硬度を誇るダイヤモンドですら、そのポイントを見極めれば粉々に砕けてしまうというのだ。
もちろん、これは真っ赤なウソであるが、そこに書かれた架空の理論には説得力があった。解説の一部を引用すると、「分子集合体の凝集力の一番弱い箇所に衝撃を与えると その分子間の連鎖反応により極めてたやすく 物体は破壊される」とのこと。「分子集合体」に「凝集力」など、何やら難しい用語が並び、いかにも“それっぽい”ので当時の子どもたちは疑いもしなかった。
ちなみに、さいとう・たかをさんの名作『ゴルゴ13』にも、同じような理論で狙撃によってダイヤモンドを一撃で砕くシーンがあった。偶然にも別々の作品で似たような内容が語られたことで、より信憑性が増した稀有な例といえるだろう。
格闘漫画で、たびたび描かれてきた「ロマン理論」。物語にどっぷり浸かっている読者にとっては、その内容がたとえフィクションであろうが、些細なことにすぎない。むしろ現実に存在しない理論を、あたかも真実であるかのように貫き通す勢いと熱量があるからこそ、ページをめくる手が止まらなくなるのだろう。
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