尾田栄一郎氏が描く大人気漫画『ONE PIECE(ワンピース)』(集英社)。さまざまな海の荒くれ者たちが跋扈する“新世界”において、まるで皇帝のように海を支配する4人の大海賊のことを「四皇」と呼ぶ。
そしてワノ国編の終了後、ルフィとともに新たな四皇に選出されたのが、千両道化のバギーである。四皇の一角であるカイドウを倒したルフィはともかく、目立った戦果を挙げていないバギーが四皇になるという異例の展開に驚いた読者も多いだろう。
単純な強さだけを見ると、到底その座にふさわしいとは思えない彼が、なぜ海賊たちの頂点たる四皇の座に君臨するに至ったのか。それは驚くべき幸運の連鎖と、本人も気づかぬカリスマ性が絶妙に絡み合ったがゆえの結果だった。
そこで本記事では、実力と実績が伴わないながらも、海賊の世界で恐ろしいほどの飛躍を遂げたバギーがたどってきた「豪運の軌跡」をあらためて振り返ってみよう。
※本記事には作品の内容を含みます。
■東の海での弱小海賊時代…伝説の海賊団にいたのに完全ノーマークだった幸運
もともとバギーは、かの偉大なる海賊王、ゴール・D・ロジャーが率いたロジャー海賊団の見習い船員であった。ラフテルへの到達を果たした唯一の海賊団にいたという事実だけを見ると、海賊の世界において破格の経歴に他ならない。
同じくロジャー海賊団の元船員であり、バギーと同時期に見習いだった赤髪のシャンクスが早々に四皇へ上り詰めたことを考えれば、バギーもまた危険人物として海軍から厳しくマークされていても不思議はなかったはずだ。
ところが現実は、そうではなかった。バギーはグランドライン(偉大なる航路)入りを前にシャンクスと袂を分かち、東の海へと流れ着く。以降は小さな島を拠点にし、弱小海賊団の船長として細々と活動を続けていたのである。
その懸賞金はルフィと初対決した時点で、わずか1500万ベリー。この時点では、とてもロジャー海賊団にいた人物とは思えない低評価である。
しかし、このノーマークな状況こそが、皮肉にもバギーにとって追い風となる。世界政府も海軍も、東の海の隅っこで鼻息荒く吠えているだけのバギーのことなど、ほとんど眼中になかったのだ。
ささやかな懸賞金がかけられたものの、ロジャー海賊団の生き残りであるという事実は公に広まっておらず、粛清の対象にもなりえなかった。もしかすると本人も素性が知られると身の危険が増すと判断した上での立ち回りだったのかもしれないが、海軍や世界政府の粛清を逃れたのは幸運というほかない。
なぜならロジャー海賊団の解散以降、海賊王の関係者は世界政府によって厳しく処断される描写がいくつも描かれているからだ。ロジャーの息子エース、オーロ・ジャクソン号を建造したトムなどがその最たる例である。
その伝説の海賊団にいながら、大した追跡も受けずに生き残れたのは、まさしく「狙われなかったから」という一点に尽きるだろう。彼自身ラフテルには上陸できなかったが、偉大なる船旅を経験したのは間違いない。それにもかかわらず、誰にも気づかれずに東の海でくすぶり続けた年月それ自体が、のちの豪運へとつながる長い助走期間だったといえるのかもしれない。


