■同盟軍を大惨敗に追い込んだ無慈悲な焦土作戦

 次に挙げるのは、自由惑星同盟軍の帝国領侵攻を大敗へと導いた無慈悲な作戦である。

 帝国軍が誇る難攻不落のイゼルローン要塞を陥落させた同盟軍は、その余勢を駆って8個艦隊・約20万隻、兵員約3000万人からなる大規模な帝国領侵攻作戦に打って出る。

 その動きをいち早くキャッチしたラインハルトは、オーベルシュタインの立案した策を採用。帝国領を侵攻する同盟軍とはまともに戦わず、辺境の星系から艦隊と物資をことごとく引き上げてしまう。

 同盟軍は抵抗らしい抵抗を受けずに各星系を解放していくが、解放軍を名乗る同盟軍としては、食料もなく辺境の星に残されて困窮する民間人を見殺しにできなかった。軍の物資を供出した結果、次第に食糧不足に陥っていくのである。

 これこそがラインハルトが採用した焦土作戦の狙いであった。ヤンをはじめとする同盟軍の将官たちはこの帝国軍の狙いに気づき、物資不足を理由に撤退を進言するが、状況を理解できていない同盟上層部は撤退を認めなかった。

 そして同盟軍の補給が完全に断たれたところで、満を持して帝国軍が猛反撃に出る。兵糧がなく、士気も下がった状態の同盟軍が、帝国軍の精鋭とまともに戦えるはずもなく、同盟の各艦隊はなすすべもなく壊滅していった。

 アムリッツァ恒星系に集結後、ヤン艦隊が帝国軍に一矢報いて、かろうじて全滅だけは避けられたが、同盟軍はこの一連の戦いでとてつもない犠牲を出したのは言うまでもない。

 何よりおそろしいのは、ラインハルトは戦いが始まる前から「勝利は確定している」と口にしていたことである。辺境の民間人まで巻き込む非人道的な焦土作戦ではあったが、その狙いは見事にハマり、自由惑星同盟は銀河帝国との国力バランスが崩壊するほどの致命的な大敗を喫したのである。

■帝国の名将を手玉にとったヤン・ウェンリーの用意周到な罠

 誰もが予想できない罠を仕掛ける達人といえば、やはり「魔術師」の異名をとるヤンを外すことはできないだろう。彼の巧妙な罠として忘れられないのが、イゼルローン再奪取作戦でコルネリアス・ルッツに対して仕掛けた罠である。

 ヤンは情報主任幕僚のバクダッシュ大佐を使って情報戦を行う。イゼルローン要塞の帝国軍に対して、皇帝ラインハルトの名で出撃命令と待機命令という相反する2つの指令を送り続けた。

 ヤンの罠を警戒する要塞司令官のルッツは、どちらが本当の指令なのか判断できず、混乱することになるのだが、実はその両方ともが偽の指令という恐ろしい罠だった。

 ルッツは、ヤンの狙いは帝国軍をイゼルローン要塞から誘い出し、その隙に要塞を奪取することではないかと考え、逆に罠に陥れようと画策する。そして、ヤンの偽指令にだまされたふりをして全艦隊を出撃させ、要塞と艦隊による挟撃を狙ったのである。

 だが、ヤンが用意した罠はそれだけではなかった。実はヤンは、以前イゼルローン要塞を放棄する際に要塞の制御システムを無力化する暗号を仕込んでおり、このタイミングでそれを発動させたのである。

 これにより帝国軍は要塞主砲のトールハンマーを撃つことができず、イゼルローン要塞にヤン艦隊が誇るローゼンリッター連隊を含む陸戦部隊が侵入。あっさり制御室を制圧されてしまったのである。そして要塞の制御システムを復旧させると、今度は迫りくるルッツ艦隊に向けて要塞主砲トールハンマーを放つのだった。

 ルッツは決して凡将ではなく、ラインハルトの信頼も厚い優秀な人物である。そのルッツがヤンの知略をあれだけ警戒しながら、それでも罠にハマってしまうのだから、まさに魔術師たるゆえんだろう。


 人間の疑念を利用したり、敵の思考そのものを読んで逆手に取ったりする場面は、派手な艦隊戦に比べたら地味かもしれないが、とても読み応えのある知将たちの見せ場だ。『銀河英雄伝説』という作品が今もなお語り継がれる理由の1つとして、こういった秀逸な頭脳戦も欠かせない要素なのかもしれない。

 

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