吾峠呼世晴さんによる漫画『鬼滅の刃』は、人を喰らう鬼と、それに立ち向かう人間たちの戦いを描いた物語だ。
物語の主人公は、鬼の始祖・鬼舞辻無惨によって家族を惨殺された少年・竈門炭治郎。唯一生き残った妹の禰󠄀豆子も鬼に変えられてしまい、炭治郎は彼女を人間に戻すため、鬼を狩る組織「鬼殺隊」に入隊し、過酷な戦いに身を投じることとなる。
しかし、炭治郎が身を置くこの「鬼殺隊」は、政府から公認されておらず、その存在は一般人にはほとんど知られていない。今回は、多くの謎に包まれた「鬼殺隊」について深掘りしていこう。
※本記事には作品の内容を含みます。
■炭治郎すら信じていなかった「鬼」の存在
鬼殺隊の目的は、人を喰らう鬼を殲滅することである。しかし、物語の舞台である大正時代の日本では、鬼の存在は世間にほとんど認知されておらず、昔話の産物と見なされていた。そしてそれは、主人公・炭治郎も例外ではなかった。
物語の第1話、日が暮れてから家に帰ろうとした炭治郎を引き止めたのは、麓の家に住む三郎爺さんだった。「鬼が出るぞ」と忠告する彼の言葉を話半分に聞いていた炭治郎は、「怖がらなくても鬼なんかいないよ」と心の中で思いながら眠りについている。
皮肉にも、炭治郎が三郎爺さんの家に泊まったその夜、彼の家族は鬼に襲われて惨殺されてしまう。しかし、被害を目の当たりにしてもなお、炭治郎は「熊か? 冬眠できなかった熊が出たのか?」と、鬼の仕業であるとは考えもつかない様子だった。唯一生き残った妹・禰豆子が鬼と化して自分に襲いかかってきたことで、初めて彼は「鬼」の存在を認識したのである。
炭治郎の鬼殺隊入隊後も、鬼の認知度の低さは随所で描かれている。たとえば、浅草で無惨に鬼にされた青年が暴れ出した時、駆けつけた警官は彼の異様な姿を見ながら「正気を失ってるのか」と判断したくらいで、それが鬼であるとは気づいていない様子だった。
一方で、前述した三郎爺さんや、アニメオリジナルキャラとして「無限列車編」に登場する駅弁屋の老婆・トミのように、年長者の中には鬼の存在を信じ、鬼殺隊を“鬼狩り様”と認識している一般人もいた。
こうした描写から、炭治郎たちよりも前の世代は鬼に遭遇する機会や被害も多く、鬼にまつわる逸話が生活の中に根付いていたのかもしれない。
いずれにせよ、存在すら信じていなかった鬼によって、ある日突然、家族も日常もすべて奪われた炭治郎の境遇は、あまりにも悲劇的であるといわざるをえない。
■帯刀すら許されない過酷な現実…政府非公認組織の「鬼殺隊」
鬼殺隊は政府から正式に認められていない非公認の組織だ。それゆえ、活動には支障も多く、その最たる例が「帯刀」である。
明治時代に発令された廃刀令により、大正時代では一般人の帯刀は禁止されている。「無限列車編」では、駅で刀を持っていることを咎められ、駅員から「警官を呼べ」と騒がれる場面も描かれていた。その際、炭治郎の同期の隊士・我妻善逸は「政府公認の組織じゃないからな俺たち鬼殺隊」「堂々と刀持って歩けないんだよ ホントは」と語り、「とりあえず刀は背中に隠そう」と提案していたほどだ。
また、同じく「無限列車編」で列車内に鬼が出現した際は、炎柱・煉獄杏寿郎が車掌に対し「火急のこと故 帯刀は不問にしていただきたい!」と理解を求めている。一般市民の命を守るために戦っているにもかかわらず、その活動が公に認められない鬼殺隊の肩身の狭さがうかがえる象徴的な場面である。
そもそも世間一般の人々は鬼の存在をほとんど認識していないため、仮に「鬼を倒すために帯刀している」と弁明したところで、かえって混乱を招く結果につながりかねない。それも、鬼殺隊が非公認の組織である理由の1つなのかもしれない。


