『銀河英雄伝説』有能な彼らはなぜ敗れたのか…ヤン・ウェンリーの「魔術」にハマった帝国軍の名将たち ビッテンフェルトにケンプ、シュタインメッツも…の画像
Blu-ray「銀河英雄伝説 新たなる戦いの序曲(オーヴァチュア) デジタルリマスター」(徳間書店) (C)田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー (C)加藤直之

 田中芳樹氏の人気小説『銀河英雄伝説』は未来の銀河系を舞台に、銀河帝国と自由惑星同盟という2つの国家間での戦争を描いた壮大なスペースオペラである。

 名将と呼ばれる存在は数多くいるが、自由惑星同盟の軍人であるヤン・ウェンリーは、味方の血を一滴も流すことなく難攻不落のイゼルローン要塞を陥落させるなど、まるで魔法のように勝利を手にしたことから「魔術師」の異名で呼ばれた人物だ。

 それに対抗する銀河帝国のラインハルト・フォン・ローエングラム麾下には、もちろん有能な軍人がそろっている。だが、ヤンの前では赤子の手をひねるかのごとく翻弄され、敗れ去ってしまうことが多い。

 今回はそんな名将たちが、どのようにしてヤンの奇計にハマって敗れてしまったのか、象徴的な戦いを振り返っていきたい。


※本記事には作品の内容を含みます。

■一瞬の隙を突かれ、包囲網のほころびとなってしまったビッテンフェルト提督

 まずは、銀河帝国において最強の攻撃力を誇るとされる艦隊「黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)」を指揮する、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト提督から紹介したい。

 「帝国軍の呼吸する破壊衝動」とまで呼ばれる彼の艦隊は攻勢にめっぽう強く、これまで同盟軍の名だたる名将たちを戦場に沈めてきた。そんなビッテンフェルトがヤンの艦隊と対峙したのは、帝国軍が圧倒的な勝利をおさめたアムリッツァ星域会戦の時である。

 この戦いは、帝国領深くまで侵攻した同盟軍が帝国の焦土作戦によって食糧不足に苦しめられ、各星域において各個撃破された末にアムリッツァ星域周辺に再集結し、決戦を挑む構図となった。

 すでに戦闘開始前から戦力差は歴然としており、同盟軍でまともに戦えそうな3個艦隊に対し、帝国軍はラインハルトをはじめ6個艦隊と倍以上。そのうえキルヒアイス率いる別働艦隊が同盟軍の背後を突くかたちで動いており、同盟軍は包囲を避けられそうにない圧倒的不利な状況下にあった。

 そんな中ビッテンフェルトは、同盟軍の中央に陣取っていたアップルトン艦隊に突撃して壊滅させる。勢いに乗るビッテンフェルトは、ヤン率いる第13艦隊に狙いを定めた。

 近接戦闘を指示し、ビッテンフェルト艦隊が回頭を開始した隙をヤンは見逃さなかった。ビッテンフェルト艦隊に集中攻撃を加え、近接戦闘のために単座式戦闘艇「ワルキューレ」を発進させようとしていたビッテンフェルト艦隊は対応が遅れて大きな被害を受けた。

 ここでビッテンフェルト艦隊が大損害を受けたことで、帝国軍は同盟艦隊を完全に包囲することができず、かろうじて同盟軍の一部は戦線を離脱することができたのである。

 並みの提督であれば中央の艦隊が壊滅させられて浮足立つところを、ヤンは冷静に戦況を見極め、勝利に沸くビッテンフェルト艦隊に手痛い打撃を与えた。それは単に局地戦に勝利したというだけでなく、全体として大敗は免れない絶望的な状況にあった同盟艦隊を、少しでも逃がすための退路として機能させたのは本当に見事であった。

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