甘酸っぱい王道ラブストーリーから心あたたまるヒューマンドラマ、背筋が凍るミステリーやホラー、そして夢と魔法に彩られたファンタジーまで、多彩な名作が次々と生まれた90年代の少女漫画。発売日にはお小遣いを握りしめて書店へ駆け込み、胸を高鳴らせながらページをめくった記憶を持つ人も多いはずだ。
そうして作品の世界に足を踏み入れた読者は、時に笑い、時に涙しながら物語の展開を追っていく。クライマックスへと加速し始めると高揚感も増し、気づけば、主人公たちの人生を追体験するかのように深く没入しているのである。
そして迎える最終回。物語の結末に胸を締めつけられ、終わってしまう寂しさと同時に温かな余韻に包まれる感覚は、言葉に尽くしがたいものがある。そこで90年代の名作少女漫画をピックアップし、5回にわたってそれぞれが迎えた結末をあらためて振り返ってみたい。
(第1回/第5回)
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■少女の優しさがほどく十二支の呪いと絆『フルーツバスケット』
1998年から2006年まで『花とゆめ』で連載されていた『フルーツバスケット』は、高屋奈月氏を代表する名作だ。日本のみならず海外でも高い支持を集めた作品で、2007年には「世界で最も売れた少女漫画」としてギネス世界記録にも認定されている。
主人公は、両親を亡くしながらも明るく前向きに生きる心優しい女子高生・本田透。物語は、そんな透が引き取られた祖父の家の改装によって住む場所を失い、山でテント生活をするところから始まる。
その山は古くから続く名家・草摩家の所有地で、透は草摩紫呉や由希に導かれその家に身を寄せることになる。だが、この一族は一部の者が物の怪の呪いを宿して生まれ、異性に抱きつかれると十二支の動物に変身してしまう……という、十二支にまつわる秘密があった。
十二支の者たちは、彼らにとっての神である当代・慊人を軸に結びつく一方で自由を奪われ、それぞれが問題を抱えていた。なかでも十二支に入れなかった“猫”憑きの夾の疎外感と孤独は、根深く彼の心を傷つけている。
透は夾や一族の呪いを解くために動きだし、持ち前の優しさで少しずつ皆の心を解きほどいていく。やがて物語は、草摩家を縛り続ける神・慊人と十二支の絆の核へと踏み込んでいった。
クライマックスで明かされたのは、当主の慊人が男の子として育てられた女の子だということ。孤独の中で生きてきた彼女にとって、十二支との絆は全て。ゆえに、透の介入で変わっていく十二支たちに執着し、呪いが解けることを恐れていた。
一方で、惹かれ合っていた透と夾にも衝撃的な事実が浮かび上がる。実は夾はかつて透の母・今日子と親交があり、透のことも知っていた。さらに彼は、今日子の事故現場に居合わせ、結果的に彼女を“見殺し”にしてしまったという過去の持ち主だったのだ。
透はすべてを知ってなお彼への愛をしめすが、結局はすれ違っていく。夾が抱えてきた後悔と傷の深さが浮き彫りになる、胸を締めつける場面だ。
その後、物語はさらに核心に突入。透の前に慊人が現れ、十二支との関係を変えたことへの怒りをぶつけながら自分の苦しみをこぼす。置いていかれる者の痛みを知る透は、彼女の気持ちを丸ごと受け止めると、「改めて友達になりたい」と手を差し出した。その深い愛と優しさにより、がんじがらめだった慊人の心もついに解放されるのであった。
以降、十二支の呪いは1人また1人と解け、大切な人と向き合う中で新たな希望と愛を見つけていく。中でも印象的なのが、透を巡る由希と夾の想いである。
透のおかげで自分の殻を破った由希は、彼女に感じているのが母性に近いと気づくと、感謝を告げて生徒会仲間の倉伎真知と恋に落ちた。そして、夾は透への想いを再確認し「これから生きていくならおまえと一緒がいい」と愛を告白。その瞬間に猫の呪いも解け、ずっと彼を思い続けていた透の恋はやっと成就するのだった。
こうして、十二支と透の物語は愛とともに静かに幕を閉じる。過酷な運命を背負いながらも懸命に幸せを見つけていく彼らの姿は胸を打ち、多くの読者に温かい余韻を残した。
自分を愛せず誰かを傷つけることで自我を保ったり、孤独への恐怖から執着してしまったり、悲観して殻に閉じこもったり……。登場人物たちが抱えていた悩みや苦しみは特別なものではなく、読み手にも重なるものだったからこそ、それぞれのエピソードが読者の心を強く掴む。作中には数々の名言も散りばめられており、『フルーツバスケット』は人生を映し出す物語だと言っても過言ではないだろう。
何度でも読み返したい!漫画『フルーツバスケット』をAmazonでチェック



