■江渡貝弥作には、全肯定し「唯一の理解者」となる

 鶴見に魅了されたのは、軍人だけではない。夕張の郊外で剥製工房を営む若き職人・江渡貝弥作もその1人だ。彼は人間の皮を用いて作品を制作するという特殊な嗜好の持ち主であり、その異常性ゆえに世間から隔絶され、深い孤独の中にいた。

 自身の工房を訪れた鶴見に対し、江渡貝は自らの秘密を守るために殺意を向ける。しかし、鶴見はいっさい動じず、むしろ彼の作品を「素晴らしい」と惜しみなく賞賛するのだ。

 歪んだ母親に育てられ、自己肯定感を持てずにいた江渡貝にとって、己のすべてを受け入れてくれる理解者の出現は、それまで否定され続けた自分の存在そのものが初めて肯定された瞬間だった。そして自身を崇拝し始めた江渡貝に、鶴見は金塊争奪戦を有利にする「刺青人皮の偽物を制作する」という重要な役割を与えたのである。

 刺青人皮が完成してまもなく、工房が襲撃されるという不測の事態に見舞われながらも、江渡貝は偽物の刺青人皮を守り抜くために逃走。最期は炭鉱の爆破に巻き込まれて命を落とすが、その身を犠牲にしてまで自らの「作品」を鶴見に届けることにすべてを捧げた。

 彼にとっては、鶴見の役に立ち、その一部となることこそが、自らの存在意義そのものとなっていたのである。

 

 ここまで見てきたように、鶴見中尉の人心掌握術の本質は、相手が欲しがっているものを的確に見抜き、その役割を完璧に演じることにある。ある時は「英雄」、ある時は「人生の導き手」、そしてある時は「唯一の理解者」だ。

 彼の部下たちは、鶴見に利用されていることをどこかで察しながらも、彼に必要とされる喜びを見出していた。一度その「愛」という名の毒に触れてしまえば、たとえそれが自分を操る手法だと知っても、もはや彼なしの人生には戻れないのだ。

 この、人の心の弱さにつけ込む甘美で恐ろしいカリスマ性こそが、鶴見中尉の最大の武器といえるだろう。

 

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