■すべてを機械化…あらゆることを快適にした末路「なまけものの鏡」

 科学技術が極限まで進歩し、人間があらゆる労働から解放された“理想の社会”の絶望的な末路を描いたのが「なまけものの鏡」のエピソードだ。

 この星はすべてが自動化・機械化されており、住人たちは何もしなくても快適に暮らすことができるという。しかし、鉄郎が自動運転車で街に繰り出しても、外にはまったく人の気配がない。不思議に思い一軒の家を訪ねてドアを開けると、鉄郎はブヨブヨとしたものに弾き飛ばされてしまう。驚くべきことに、なんとそれは人間の膝だった。

 働く必要がなくなり、ただひたすら楽をすることを覚えたこの星の住人たちは、怠惰によって異常なまでに肥大化していた。遂には家を破壊してしまうほど巨大な体に成り果てていたのだ。彼らは便利さを追求した結果、生きる意欲や活力を失い、文字通り“なまけもの”として生きていた。

 家事や仕事、あらゆる労働を機械が肩代わりしてくれるこの星は、一見するとかつての地球人が夢見た究極のユートピアのようにも思える。しかし、実際にやることがなくなると、地球人もこのように肥大化して家を破壊するほど堕落してしまうのだろうか。科学技術の発展により体を動かす機会が減っている現代人に、警鐘を鳴らすような恐ろしいエピソードである。

 

 今回紹介したエピソードは「自然保護」や「争いのない社会」「労働からの解放」など、どれも人類が目指すべき立派な理想ばかりだ。しかし、それらの理想が行き過ぎた結果、社会が歪んでしまうリスクも描かれている。

 松本さんの鋭い洞察力と豊かな想像力が生み出したこれらの星々の物語は、半世紀近く経った今もなお、現代を生きる私たちに「本当の豊かさとは何か?」を静かに問いかけているように思う。

 

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