1977年に連載が開始された松本零士さんの不朽の名作『銀河鉄道999』。本作は、永遠の命を求めて宇宙を旅する少年・星野鉄郎と謎の美女メーテルの物語であり、その道中では想像を絶するような奇抜な星々が登場する。
999号が停車する星には宇宙人や機械化人が住んでいることも多いが、なかには人間がその星に移住してきたケースもある。そのような星では、人々が「より住みやすい星にしたい」と理想を掲げ、良かれと思って築き上げた独自の法律や文明が定着している。しかし、その善意から生まれたはずの行動が、結果として地獄のような社会を生み出してしまった例も少なくない。
今回は現代社会への強烈な皮肉にも思える、「人間の理想が招いた最悪の星」を紹介したい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■星を美しくしたいと持ち込んだ花が原因で…毒花に支配された「心やさしき花の都」
「心やさしき花の都」のエピソードは、その美しいタイトルからは想像もつかないほど救いのない結末と本末転倒な社会を描いている。
999号が降り立った星「花の都」は、見渡すかぎり美しい花々が咲き誇る惑星であった。しかし、そこに咲く花はすべて、人間にとって致死性のある猛毒の花粉を放出する「毒花」なのである。
住人たちは宇宙人のような防護服(テクタイト)を着なければ外を歩くこともできず、常に死の危険と隣り合わせの生活を余儀なくされていた。毒花のせいで病人が続出し、人口はわずか100年で80%も減少するなど、星は危機的な状況に陥っていたのである。
そもそもこの花は、星を開拓した先人たちが「この星を美しくしたい」という純粋な思いで持ち込んだものであった。その経緯もあってか、この星では「花に手をかけること」が法律で固く禁じられており、違反した者は死刑に処されるというルールがある。
そんな中、コアという男が率いる一家は人々の命を救うため、自らが死刑になることを覚悟の上で星中の花を焼き払う。毒花が消え、人々が自由に深呼吸できるようになった大地に人々は歓喜するが、軍の関係者は「法は法」と冷酷に言い放ち、彼らの救世主であるはずのコア一家を“人柱”として残酷に処刑するのである。
先人の“星を美しくしたい”という善意が、結果的に毒花が咲き乱れる地獄を生み出してしまった。そして「人命よりもルールを優先する」という思考停止に陥った社会の恐ろしさを痛感させられるエピソードである。
■科学よりも自然を選んだ住人の取った行動は…「原始惑星の女王」
「原始惑星の女王」のエピソードでは、争いを避けた結果として生み出された残酷な人間の業が描かれている。
鉄郎たちが降り立ったのは、その名も「けんか別れ」という真っ二つに割れたいびつな形状の星だ。かつてこの星では、科学の発展を重んじる「科学派」と、ありのままの自然との共生を選ぶ「自然派」が激しく対立。最終的に彼らは星そのものを物理的に2つに分割し、別々の道を歩むという選択をとったのである。
鉄郎とメーテルが訪れたのは、科学を捨てた「自然派」が住む側の星だった。イメージ的に自然に寄り添う平和な世界かと思いきや、そこに住んでいたのは原始的な衣服をまとった不気味な原住民たちだった。
科学を捨てて原始に戻った彼らだが、知的好奇心や刺激を求める心までは捨て去ることができず、やがて歪んだ欲求のはけ口として娯楽を生み出す。それは、「選挙で選んだ1人を集団でリンチし、殺害することで暇つぶしをする」という、あまりにも悲惨な風習だった。
やることがないからといって他者の命を娯楽として奪う行為は、我々地球人の価値観からは到底信じられない。しかし、争いを避けるために星を割るという“良かれと思った選択”が、結果として内部からより陰惨で残酷なルールを生み出してしまったのである。
物語の終盤、生贄にされかけたメーテルの機転もあり、最終的にこの「けんか別れ」の星は爆発・消滅してしまう。崩壊していく星を見つめながら、鉄郎が言った「ほどほどのいいかげんなところで仲よく手をうって、ゆずりあって暮らすのが一番なんだ」というセリフは、人間同士が生きていく上で必要な本質そのものだろう。


