最終回はどうなった? 佐々木倫子が描いた国民的漫画『動物のお医者さん』ハムテルと二階堂が迎えた「知られざる着地点」の画像
花とゆめコミックス『動物のお医者さん』第1巻(白泉社)

 最近、愛らしい動物が登場する漫画をよく見かける。しかし、そのジャンルの先駆けとなり、社会現象まで巻き起こした作品といえば、佐々木倫子氏の『動物尾のお医者さん』だろう。

 本作はH大学獣医学部を舞台に、主人公・西根公輝(通称:ハムテル)と親友の二階堂昭夫、そして個性豊かな動物たちが織りなす大人気コメディだ。読んだことがある人は多いだろうが、その最終回がどのような結末を迎えたのか、詳しく知らない人もいるかもしれない。

 『動物のお医者さん』の最終回は、単なるコメディにとどまらないシビアな現実と、彼ららしい“緩いオチ”が描かれている。今回は、本作の魅力を改めて振り返りながら、知られざる最終回を紹介していく。

 

※本記事には作品の核心部分の内容を含みます

 

■恋愛要素は一切なし! 異色のハスキーブームを巻き起こした『動物のお医者さん』

 『動物のお医者さん』は、『花とゆめ』(白泉社)にて1987年から1993年まで連載された大ヒット少女漫画である。コミックスは全12巻が刊行されており、2003年には吉沢悠さん主演で実写ドラマ化もされている。

 物語は高校3年生の主人公・西根公輝(通称:ハムテル)と親友の二階堂昭夫が、H大学の構内で般若のような顔をしたシベリアン・ハスキーの子犬と、名物教授である漆原信に出会うところから始まる。教授から“君は将来、獣医になる!”と予言めいた言葉と共に子犬を託された2人は、導かれるようにH大獣医学部へと進学するのだ。

 1980年代後半の少女漫画界といえば、恋愛を主軸に置いたストーリーが王道だった。本作でも獣医学部を舞台に多くの若い男女が登場するため、ハムテルと誰かがくっつくのかと思いきや、そうした胸キュンな恋愛要素は一切登場しない。描かれるのは、ひたすら過酷でシュールな獣医学部の実習風景や、ハムテルの愛犬・チョビをはじめとする動物たちのリアルかつユーモラスな生態なのである。

 こうした作風の少女漫画は当時珍しく、また1話完結形式のストーリーはどの巻からでも読み進めることができ、読者をすぐに作品世界へと引き込んだ。

 特に、チョビの愛らしさは読者の心を鷲掴みにし、日本中に空前のシベリアン・ハスキーブームを巻き起こしたほどである。さらに、本作のH大学のモデルとなった北海道大学獣医学部の志願者数は連載後に跳ね上がったという。

 このように、社会現象まで生み出し、老若男女問わず愛された作品が『動物のお医者さん』なのである。

■動物好きだけでは生き残れない!? 獣医学部生たちが直面した「進路の現実」

 『動物のお医者さん』は基本的に1話完結形式で、各話で異なる動物たちが登場し、ハムテルたちがその世話に奔走するストーリーが中心である。

 だが、物語の終盤になると、いよいよ彼らも大学卒業と就職という人生の岐路に立たされる。ここで描かれるのが、“動物が好き”という純粋な気持ちだけでは乗り越えられない、獣医学部生たちが直面するシビアでリアルな「進路の現実」だ。

 例えば、ハムテルの同級生である清原貴志は、外科医や内科医の仲間3人と共に借金2000万を抱え、動物病院を開業する。また、別の同級生である中川は九州の「カンガルーワールド」に獣医師として就職。親子カンガルーを「営業部長」と名づけて観光客に愛想を振りまいてもらうなど、シュールな奮闘ぶりを見せていた。

 こうして仲間たちが次々と進路を決めていくなか、博士課程を続けるハムテルと二階堂はなかなか将来が決まらない。そんな折、早く開業してお金儲けをしたいと考えるハムテルの祖母から“土地は貸してやるから早く開業しろ”とはっぱをかけられるのであった。

 最終話へと続くストーリーは、就職後の泥臭い労働や、新人獣医師としての自信のなさ、経営の厳しさといった現実的なエピソードがコミカルなエピソードを交えて描かれる。獣医という職業の過酷さを紹介しつつも、それを笑いに昇華させる作者の手腕には、改めて感心するばかりだ。

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