■体にサボテンが寄生…!? 読者にトラウマを植え付けた奇談「木の芽」

 未知の病というホラー描写で当時の子どもたちに強烈なトラウマを植え付けたのが「木の芽」というエピソードである。

 ある日、青木幹男という少年の体から、突如として木の芽が生えてくる。この異変に気付いた兄の茂がB・Jに助けを求めるも、症状は急速に悪化。顔や手からもわさわさと葉が茂り、同級生から「おばけだーっ」と怯えられ、ついには全身が大量の葉に覆われてしまうのだ。

 人間の肉体が植物に侵食されていくその異様な光景は、まさにトラウマ級の恐ろしさである。また、幹男を救うために緊急手術を行ったB・Jが、心臓の横にあった植物の寄生を取り出すシーンにも戦慄だ。

 B・Jの手術で無事に取り除かれたその芽の正体は、なんと一家がブラジルに住んでいた頃に可愛がっていた「サボテン」だった。手術後、“サボテンには一種の霊感みたいなものがある”と説明していたB・J。サボテンが少年と一緒に日本へ来たいと願い、その体に寄生したという、何とも奇妙で恐ろしいストーリーである。

■ターゲットは死者の魂!? 降霊会で憑依した霊を執刀する異色作「霊のいる風景」

 最後に紹介するのは、タイトルからしてオカルト色の強いエピソード「霊のいる風景」だ。

 心霊現象が多発する屋敷で行われていた降霊会。そこで、病気を治せないまま無念の死を遂げた女性の霊が、屋敷の息子に憑依し‘‘手術をしてほしい‘‘と懇願する。心霊現象を全く信じないB・Jだったが、憑依された少年の体を診察し、1000万円を条件に手術を引き受けるのであった。

 手術を終え、B・Jが治療費を請求すると、支払いを惜しんだ母親は“健康な我が子を生体実験にした”と警察を呼んでしまう。無免許医として逮捕されそうになるB・Jだったが、実はその少年は実際に「縦隔腫瘍(じゅうかくしゅよう)」という病に侵されており、B・Jはその病巣を完璧に取り除いていたことが判明する。

 オカルト的な霊の話を入り口にしながら、最後は少年に隠されていた本物の病魔を見つけるというB・Jならではの見事な展開。しかも、物語のオカルト要素はこれだけでは終わらない。

 B・Jを連行しようとした車のエンジンはなぜかかからず、支払いを拒んだ夫人は突然アワを吹いて卒倒してしまう。事の顛末を知った警察が仕方なくB・Jを釈放すると、車は嘘のように動き出すのであった。

 この一連の出来事に対し心霊研究科は「これも霊魂のせいですかな」と呟いている。不気味な心霊ストーリーでありながら、B・Jの天才的な診断能力が光る完成度の高い怪談エピソードであった。

 

 ヒューマンドラマとしての感動エピソードが多い『ブラック・ジャック』だが、今回紹介したように、幽霊や謎の奇病を扱ったホラー色の強いエピソードも少なくない。連載当初「恐怖コミック」として宣伝されていたことにも納得だろう。

 いずれにせよこうしたエピソードは手塚さんの深い洞察から生まれたものだ。本作を読み返すたび、底知れぬアイデアと奥深さに感心するばかりである。

 

■もう一度読みたい…Kindleで『ブラック・ジャック』をチェック

ブラック・ジャック 1 ブラック・ジャック (少年チャンピオン・コミックス)
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