父を奪った男が“憧れ”になったのはなぜ?『MAJOR』主人公・吾郎の偉大なる目標、ジョー・ギブソンの劇的な野球人生を振り返るの画像
少年サンデーコミックス『MAJOR』第61巻(小学館)

 不朽の名作野球漫画『MAJOR』(満田拓也氏)は、タイトルの通り主人公・茂野吾郎が世界最高峰のメジャーリーグを目指して奮闘する物語である。しかし、吾郎は物語の初めからメジャーを志していたわけではない。ある人物との出会いを経て、メジャーを目指すという大きな目標を抱くようになる。その人物こそ、メジャーで伝説を築いた大投手、ジョー・ギブソンだ。

 本作で描かれる吾郎の野球人生はドラマチックのひと言に尽きるが、ギブソンのそれも負けず劣らず劇的で読者の心を惹きつける。そこで今回は、吾郎の偉大な目標として物語全体で強烈な存在感を放ち続けたレジェンド、ジョー・ギブソンの野球人生を深掘りしていく。

 

※本記事には作品の内容を含みます。

 

■本田茂治への死球をきっかけに改心…吾郎をメジャーへ誘う

 初登場した頃のギブソンは、とにかく“イヤな奴”だった。ひと言で言えば「ヒール」である。

 現役メジャーリーガーとして来日した彼は日本の野球を「マイナーレベル」と見下し、その言葉を証明するかのように剛速球でプロ野球チームをねじ伏せる。その傲慢な態度は気に食わないが、実力は本物。それが多くの読者がギブソンに抱いた第一印象だろう。

 そんなギブソンの運命は、吾郎の父親・本田茂治との対決で大きく動き出す。不断の努力で野手に転向した茂治に、来日後初となるホームランを打たれたことで調子を崩したギブソンは、次の打席で茂治の頭部に死球をぶつけてしまう。あくまで不幸な事故だったが、これが原因で茂治はこの世を去り、ギブソンの長きにわたる贖罪の人生が始まるのである。

 父を失って泣きじゃくる吾郎の姿に「オレは、なんて言葉で詫びたらいいんだ!!」と慟哭するほど深く後悔したギブソン。彼はそれまでの不遜な態度をあらため、茂治を失った日本球界と、吾郎たち遺族への償いのために日本プロ野球で真摯にプレーを続ける。その過程で家族と離れ離れになり、アメリカで妻と娘が事故死するというさらなる悲劇に見舞われながらも、ギブソンは日本で投げ続けたのだ。

 事故から数年後、メジャーリーグに復帰したギブソンは、小学生に成長した吾郎をアメリカに招待する。「こんなにすごいピッチャーから、君の父親はホームランを打ったんだよ」と吾郎に語りかけるかのように、世界最高峰の強打者からストレートで三振を奪っていくギブソン。その圧巻の投球を目の当たりにした吾郎は深く感動し、「いつか自分もメジャーで戦いたい」と願うようになるのだ。

 吾郎から父親を奪ったギブソンが吾郎に夢を与えるとは、なんと数奇な運命だろうか。

■国際大会では病気も構わず気迫のピッチング…アメリカを優勝へ導いた

 吾郎と別れた後も、ギブソンは「いつか吾郎とメジャーで投げ合いたい」という新たな夢を胸にマウンドに立ち続け、吾郎が高校を卒業する頃には通算300勝を達成する伝説的な大投手に登り詰めていた。ギブソンのその想いは海を越えて吾郎に届き、彼がメジャーに挑戦する大きなきっかけとなる。

 各国が世界一を競う「野球W杯(ワールドカップ)編」では、ギブソンはアメリカ代表に選ばれる。現実のWBC(ワールドベースボールクラシック)2026でも、レジェンドのクレイトン・カーショウ選手が代表に選抜され、『MAJOR』ファンの間で「まるでギブソンだ」と話題になったのは記憶に新しい。

 だが、アメリカ代表に選ばれた矢先、ギブソンは医師から狭心症という病を宣告される。手術をすれば、事実上の引退だ。吾郎と投げ合う夢をかなえるため、そしてライバルになるはずだった茂治への“ケジメ”をつけるため、ギブソンは命を賭けてW杯出場を強行するのである。

 まるで消えかけのロウソクが最後に大きく燃え上がるように、W杯でのギブソンは鬼気迫るプレーを見せた。

 準決勝のベネズエラ戦では気迫のピッチングで勝利を呼び込み、決勝の日本戦ではドクターストップを振り切って登板、遂に念願だった吾郎との投げ合いを実現させる。その執念は息子のジョー・ギブソンJr.(ジュニア)をも奮い立たせ、彼の逆転サヨナラ満塁ホームランの呼び水となった。

 印象的なのが、準決勝で苦戦するチームを一喝した「ベースボールに最も真摯でない国を、このアメリカにしたい奴は、たった今、ユニフォームを脱いで消え失せろ!!」というセリフだ。ギブソンの野球(ベースボール)への情熱があふれるこの言葉はチームを奮起させ、アメリカを優勝に導いた、本作屈指の名言といえるだろう。

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