しげの秀一氏による公道レースバトル漫画『MFゴースト』がアニメ化され、凄腕のドライバーたちが繰り広げる白熱のレースが多くの視聴者を魅了している。
本作は、かつて日本中の走り屋を熱狂させた伝説的漫画『頭文字D』の正統な“後継作”であり、物語の舞台も地続き。最大の注目点は、主人公・片桐夏向(カナタ・リヴィントン)が、『頭文字D』の主人公である藤原拓海の教え子だという設定であろう。
夏向がトヨタ・86を操り、欧州のハイパースポーツ勢をコーナーで追い詰める展開は、四半世紀以上前に読者を夢中にさせた『頭文字D』の遺伝子を色濃く継承している。『MFゴースト』の劇中に散りばめられたオマージュに、懐かしさを覚えた往年のファンも多いことだろう。
今回は、『MFゴースト』をより深く楽しむために、その原点である『頭文字D』で描かれた伝説的な名バトルを振り返る。
※本記事には作品の内容を含みます。
■格上マシンを技術で圧倒!
『頭文字D』が読者をとりこにした本質は、非力なAE86(ハチロク)が格上のマシンを打ち破る“ジャイアントキリング”のカタルシスにある。その象徴ともいえるのが、藤原拓海と「赤城レッドサンズ」のナンバー2、高橋啓介との初戦である。
圧倒的な加速性能を誇るマツダ・RX-7(FD3S)に対し、拓海はコーナーのイン側にある側溝にタイヤを引っかけて旋回速度を稼ぐ「溝落とし」を披露。この常識破りの攻略法は、マシンの性能差という絶対的な壁を、卓越した技術と類まれなる発想でくつがえすという、作品の核心を示している。
『MFゴースト』で夏向が見せる、タイヤの力を限界まで引き出す緻密なドリフトや、濃霧の中での激走は、まさに拓海が到達した「公道最速の神髄」を現代のレースシーンで体現しているといえよう。
■拓海が「真の走り屋」に覚醒したきっかけ
ライバルとの精神的な削り合いという点では、「妙義ナイトキッズ」の庄司慎吾が仕掛けた「ガムテープデスマッチ」が強烈だ。これは数あるバトルの中でも、拓海が初めて怒りをあらわにし、走りの本質に触れた異質な一戦といえる。
慎吾の目的は速さの競い合いではなく、拓海のハチロクをクラッシュさせ、再起不能に追い込むことにあった。ガムテープで右手をステアリングに固定し、舵角を極端に制限するという異常なルールのもと、拓海は当初ガードレールに激突しそうになるほどの窮地に追い込まれた。
しかし、この絶体絶命の状況が拓海の天性のセンスを呼び覚ます。ステアリングが制限されるならばと、アクセルとブレーキの巧みな操作による荷重移動だけで車体をコントロールする走法を見出したのだ。極限状態が、皮肉にも拓海のドライビングスキルを新たな次元へと昇華させるきっかけとなったのである。
最終的に、追い詰められた慎吾は自暴自棄になり、ハチロクを道連れにするかたちで激突しようと「ダブルクラッシュ」を仕掛ける。しかし拓海は、ぶつけられた衝撃で乱れたマシンの挙動を神業ともいえるステアリング操作で瞬時に立て直し、クラッシュを回避。標的を仕留め損ねた慎吾のマシンだけが単独でガードレールに激突するという、衝撃的な結末を迎えた。この一戦は、拓海が過酷な条件下でも最適解を導き出す「真の走り屋」へと進化する大きな転換点となった。


