『北斗の拳』誇り高き戦士の最期を見届け、残された者たちの「泣ける名シーン」アスカに黒王号、シュウも…の画像
ゼノンコミックスDX『北斗の拳 究極版』第1巻(徳間書店)(C)武論尊・原哲夫

 1983年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載された、原作:武論尊氏、作画:原哲夫氏によるバトル漫画の金字塔『北斗の拳』。核戦争によって荒廃した世紀末を舞台に、主人公・ケンシロウをはじめとするあまたの漢(おとこ)たちが、壮絶な戦いを繰り広げる物語だ。

 本作の魅力は、ただの肉弾戦の迫力だけにとどまらない。散っていった強敵(とも)たちの生きざまや、その最期を見届けた者たちが織りなす重厚な人間ドラマこそ、多くの読者の心をつかんで離さない理由だろう。

 子どもの頃は必殺技に胸を躍らせたものだが、大人になった今読み返すと、残された者たちによる弔いのシーンや、悲しみを乗り越えようとする姿勢にグッとくる。

 今回はそんな心を揺さぶられる、残された者たちの泣ける名シーンを紹介したい。

 

※本記事には作品の内容を含みます。

 

■パパの安らかな眠りを守るため…涙をこらえた幼き娘、アスカ

 『北斗の拳』において、特別な拳法を使わずとも、その泥臭い生きざまで読者を魅了したのが賞金稼ぎのアインだ。彼はアメリカンスタイルの服装に身を包み、「ケンカ拳法」を駆使して戦う男で、当初は金のためにその拳を振るっていた。

 しかし、彼が戦う本当の理由はただ1つ、愛する一人娘・アスカの未来を守るためだった。バットが放った「好きな女のために時代を変えてやる」という言葉に感銘を受けたアインは、アスカが誇れる父親になるべく、北斗の軍に参加し、打倒天帝を掲げて戦うことを決意する。

 帝都の地下における死闘の最中、帝都の総督・ジャコウの卑劣な罠が発動し、落石が仲間たちを襲う。アインは身を挺してバットたちを守り、最後の力を振り絞って地下水脈の岩盤を打ち砕くことで、皆を救い出した。だが、その代償として力を使い果たした彼は、バットに愛娘の未来を託して静かに息を引き取るのだ。

 その後、父の遺体と再会を果たしたアスカは「わたし泣かない… わたしが泣いたらパパ眠れない」と言い、決して涙を流さなかった。幼いながらも気丈に振る舞い、父の形見のグローブを「きっとパパも喜ぶと思うから」とケンシロウに託すアスカの姿は、多くの読者の涙を誘った。

 アスカの健気な姿は、かつて荒野で涙を流していた幼き日のリンの姿と重なって見える。時代が変わっても幼き者が虐げられる姿は切なく、それを守るために戦ったアインの不器用ながらも深い愛情には胸を打たれる。

 父の亡骸の前では涙を見せなかったアスカだが、その悲しみの深さは計り知れない。どうかその後は思い切り泣いて、内に秘めた悲しみを発散してほしいと切に願ってしまう。

■ラオウの愛馬・黒王号が唯一認めた漢への弔い…ジュウザの埋葬

 南斗五車星の一人、雲のジュウザは「俺は誰にも縛られねぇ!」と公言し、自由奔放に生きる男だった。しかし守るべき南斗最後の将の正体が、かつて心から愛した女性・ユリアだと知ると、彼は自らの命を投げ打ってラオウの足止めに向かう。

 圧倒的な強さを誇るラオウに対し、ジュウザは予測不能な我流の拳で翻弄。一時はラオウの愛馬・黒王号を奪取するほどの見事な立ち回りを見せた。

 しかし、2度目の対決ではラオウの剛腕の前に致命傷を負ってしまう。それでもなお、とどめの一撃を受ける寸前に「おれは最期の最期まで雲のジュウザ!!」と叫び、自らの命に終止符を打つという最期を遂げた。

 この凄絶な最期を見届けたラオウは、「敵ながらみごとであったジュウザ!!」と最大級の賛辞を贈る。だが、このシーンで何よりも印象的だったのが、黒王号の行動だ。

 ふだんはラオウ以外の何者も背に乗せぬ気性の荒い黒王号が、ジュウザの亡骸の前に進み出ると、自らの蹄で土をかけ、埋葬しようとしたのである。

 言葉を話せぬ黒王号だが、その行動から命をかけて散っていったジュウザの気高い魂に敬意を表したことがうかがえる。ラオウもそんな黒王号の気持ちを汲み取り、ジュウザを丁寧に葬るよう部下に命じるのであった。

 このシーンはセリフではなく、黒王号の行動に深い哀悼の意が表れており、静かな感動を呼ぶ屈指の名場面だと言えるだろう。

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