往年の少女漫画に登場する「男装のヒロイン」はなぜこんなにモテたのか?『ベルサイユのばら』オスカルに『花ざかりの君たちへ』芦屋瑞稀、『桜蘭高校ホスト部』藤岡ハルヒも…の画像
フェアベルコミックス『ベルサイユのばら』第9巻(フェアベル)

 少女漫画のヒロインは、おてんばな少女が男の子と喧嘩しながら恋をしたり、内気な学生がひそやかにヒーローと愛を育んでいったり、さまざまなタイプの主人公がいる。そのなかには作中のイケメンたちから人気を博し、究極の愛されポジションを獲得しているのは、女性としてではなく「男性」として生きる道を選んだ「男装のヒロインたち」も多く存在する。

 多くの女性が憧れるであろう恋の駆け引きや、いわゆる“女の武器”をあえて封印した彼女たちは、なぜあれほどまでに男性キャラクターにモテたのだろうか?

 今回は彼女たちが「女性」としてではなく、1人の人間として多くの男性から愛された理由と、男装ヒロインならではの特別な魅力について振り返っていこう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■背中を預けられる戦友として生き抜いた気高さ『ベルサイユのばら』オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ

 美しい男装ヒロインの先駆けといえば、池田理代子さんによる『ベルサイユのばら』を思い浮かべる人も多いだろう。本作は、1972年から1973年にかけて集英社の『週刊マーガレット』(現:『マーガレット』(集英社))で連載された歴史ロマンの金字塔である。

 フランス革命前夜の激動の時代を背景に、王妃マリー・アントワネットの数奇な運命と、代々将軍家であるジャルジェ家の末娘として生まれながらも“息子”として育てられた男装の麗人、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェの気高い生涯を描いた名作だ。

 本作においてオスカルは、素顔は美しい女性でもありながら、周囲の男性からは“誇り高き1人の人間”として深く愛されている。彼女がこれほどまでに人を惹きつけた理由は、彼女が共に剣を取り、命を懸けて戦う“背中を預けられる戦友”としての信頼感を得ていたからだろう。

 実際に作品を読み返すと、幼なじみのアンドレ・グランディエをはじめ、彼女を愛した男性たちは皆、オスカルの気高さや自立した精神の強さに惚れ込んでいることがわかる。彼らは軍人としての職務を全うする凛々しい姿にも強く惹かれているのだ。

 しかしその一方で、ハンス・アクセル・フォン・フェルゼンへの叶わぬ恋に密かに涙を流したり、一度だけ女性としてドレスに身を包むなど、完全な男性として生きることのためらいも見られる。軍人として生きる気高さがある一方、時折見せる女性であることの繊細さや危うさ。そのギャップこそが、周囲の男性たちや私たち読者の心を鷲掴みにしたと言えるだろう。

■恋心よりも“ただ応援したい”という無償の献身が魅力『花ざかりの君たちへ』芦屋瑞稀

 中条比紗也さんによる『花ざかりの君たちへ』は、1996年から2004年にかけて『花とゆめ』(白泉社)で連載された大ヒット学園ラブコメディである。

 アメリカ育ちの帰国子女・芦屋瑞稀が憧れの走高跳選手・佐野泉に再起してもらうため、性別を偽って全寮制の男子校・桜咲学園に転入するところから物語は始まる。奇跡的にも佐野と同室になり、ドタバタな男子校ライフを送る瑞稀だったが、実は佐野は早々に彼女が女性であることに気づきながらも、その秘密を守り続けるという展開だ。

 そんな瑞稀が、佐野やサッカー少年の中津秀一をはじめとする個性豊かなイケメンたちから愛された理由は、彼女の目的が“好きな人と恋をすること”ではなく、ただひたすらに“佐野にもう一度走高跳をしてほしい”という純粋な願いにあったからだろう。

 恋の駆け引きなどではなく、自分の性別すら偽って彼を応援しようとするその“無償の献身”が、過去のトラウマから心を閉ざしていた佐野の心を溶かしていったのだ。

 本作の瑞稀は、あざとさゼロの振る舞いが非常に魅力的だ。男子校のノリにもすっかり馴染み、男友達として気兼ねなく肩を組んで笑い合うような“親しみやすさ”を持っている。

 しかし、ふとした瞬間に見え隠れする女性らしさや、正体がバレてしまうかもしれないといったスリルが、周囲のヒーローたちの「守ってあげたい」という庇護欲を刺激するのだろう。

 同性の親友としての居心地の良さと、異性としてのドキドキを同時に与えてしまうこの異色な状況こそ、男装ヒロイン特有の愛される理由なのである。

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