昭和から平成の時代にかけて、一世を風靡したバトル漫画の金字塔たち。主人公である少年や青年たちの熱き戦いが読者を魅了したが、その中でもひときわミステリアスな異彩を放っていたのが、「仮面」で素顔を覆い隠した女性キャラクターたちである。
漫画作品において、キャラクターが素顔を隠すという行為は、単なるファッションやキャラクター付け以上の意味を持つことが多い。彼女たちの場合、そこには背負わざるを得なかった厳しい掟や、逃れられない宿命といった深い背景が秘められていたのである。
今回は、大人になった今だからこそ分かる、彼女たちが仮面を被るに至ったドラマチックな真実を振り返ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■素顔を見られたら「殺す」か「愛す」か…過酷な掟に翻弄された女聖闘士『聖闘士星矢』シャイナ
1985年から1990年にかけて『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された、車田正美氏の代表作『聖闘士星矢』。星座をモチーフにした聖衣(クロス)を身に纏い、己の小宇宙(コスモ)を燃やして戦う少年たちの姿は爆発的な人気を博した。
そんな本作において独自の立ち位置を築いていたのが、女性の聖闘士(セイント)たちである。作中の聖域(サンクチュアリ)には、“女子が聖闘士の世界に入るときは、女であることを捨て去るため、自らの顔に仮面をつけなければならない”という、極めて理不尽な掟が存在していたのだ。
その掟に最も翻弄されたのが、蛇遣い星座(オピュクス)の白銀聖闘士・シャイナである。彼女は戦いの最中、主人公のペガサス星矢に素顔を見られてしまう。掟によれば、素顔を見られた女聖闘士に許される選択肢は、“相手を殺すか、愛するか”の2択のみ。
当初、シャイナは掟に従い執拗に星矢の命を狙うが、戦いを重ねるうちにいつしか彼への愛情に目覚めていくのである。
憎しみと愛情の間で激しく心が揺れ動きながらも、いざという時には身を挺して愛する星矢を守るシャイナの姿は強い印象を残した。冷たく無機質な仮面というアイテムが、逆に彼女の内に秘められた純粋な乙女心を際立たせていたといえるだろう。
なお、仮面を被った女聖闘士といえば、もう1人、星矢の師匠である“鷲星座(イーグル)の魔鈴”もいるが、彼女は作中で最後まで素顔を明かしていない。
一方、シャイナは美しい素顔をさらけ出し、不器用なかたちでしか愛を表現できなかった彼女の存在はとても印象的だ。大人になった今、読み返してみると、彼女の一途さと切なさが心に残る。
■愛する者たちのために正体を隠し、平和の礎となった『北斗の拳』ユリア
1983年から『週刊少年ジャンプ』で連載され、世紀末アクション漫画の金字塔となったのが、原作:武論尊氏、作画:原哲夫氏による『北斗の拳』である。主人公・ケンシロウやその宿敵・ラオウなど、屈強な漢たちの熱き死闘が描かれる中、物語の大きな軸として存在したのが、ヒロイン・ユリアの存在だ。
南斗六聖拳「慈母星」の宿命を背負うユリアは、ケンシロウの婚約者である。しかし、その類いまれなる美しさと生まれ持った深い慈愛の心ゆえに、シンやラオウをはじめとする多くの男たちの運命を変えていくこととなる。
物語の序盤、ユリアはシンによる略奪に絶望して身を投げたとされていたが、実際には南斗五車星の戦士たちによって救出されていた。その後、彼女は自らの生存をひた隠しにして「南斗最後の将」として君臨するのである。
その際、ユリアは重厚な兜と仮面で完全に素顔を覆い隠している。彼女が仮面を被った理由は、自らの存在が表に出ることで再び凄惨な争いが巻き起こるのを防ぐためであり、荒廃した世界に平和をもたらすといった大義のためであった。
こうしてユリアは愛するケンシロウに会いたいという想いを押し殺し、平和の礎となるべく、その素顔を捨てて仮面を被ったのである。
物語序盤のユリアは、ケンシロウに守られる美しくか弱きヒロインといったイメージがあった。しかし実際には仮面の下で静かに涙を流し、荒廃した世界を見守り続けた気高き女性であったのである。
彼女が被った仮面の重さと、その裏に隠された慈愛の深さは計り知れないだろう。
人気バトル漫画に登場する「仮面」を被った女性キャラクターたち。その仮面の下に隠されていたのは、己の感情を押し殺してまで貫き通したい「掟」や「大儀」であった。今、改めて振り返ると、彼女たちが背負っていた宿命の重さに驚かされてしまう。
日常生活において、仮面や覆面を被る行為はなかなかないだろう。しかし、自らの素顔を隠してまで信念を貫き通した彼女たちの生きざまは、時代を超えて、今なお色褪せない存在感を放っているのである。


