バトル漫画に登場する敵キャラクターは、必ずしも単なる「悪」として描かれているわけではない。彼らは主人公たちと激しくぶつかり合い、数々の犠牲を生み出してきた存在だが、その最期には読者の心を強く揺さぶる人間的な感情が描かれることがあるのだ。
今回は、敵でありながらも読者の深い共感を呼び、思わず涙してしまった強敵たちの最期を振り返っていきたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■敗北の先で“誇り”を取り戻した魔王…『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』ハドラー
1989年から1996年まで『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏)は、名作RPG『ドラゴンクエスト』の世界観を基にした冒険ファンタジーだ。
物語序盤、ハドラーは卑劣で小物感の漂う魔王として登場する。勇者ダイに一度敗れたあと、大魔王バーンの配下として扱われるなかで、彼は幾度となく屈辱を味わうことになる。
しかし、物語が進むにつれて、その姿は大きく変わっていく。他者の力に頼るのではなく、自らの限界に挑み続ける姿勢を見せるようになるのだ。そして、ダイを真の勇者として認めたうえで、命を賭けた戦いに臨んだ。
最期の瞬間のハドラーは、もはや単なる悪役ではなかった。そこにいたのは、勝利を渇望し、敗北を受け入れ、それでもなお前に進もうとする1人の誇り高き戦士だったのである。
作中のポップのセリフ「おれたちとどこが違う…!!? 同じじゃねぇか!!」が象徴するように、彼の在り方は勇者たちと重なっていく。勝ちたいと願い、努力し、足掻き続ける——その姿は、敵味方の境界を超えて読者を魅了し、見とれてしまうほどの存在へと変わっていた。
最初は敵として登場したキャラクターが、物語の終盤には尊敬すら抱かせる存在へと昇華したからこそ、ハドラーの死は今なお多くの読者の胸に深く刻まれているのだろう。
■嫉妬の名を持つ存在がさらした“弱さ”『鋼の錬金術師』エンヴィー
『月刊少年ガンガン』(スクウェア・エニックス)にて、2001年から2010年まで連載された荒川弘氏の『鋼の錬金術師』。本作に登場したエンヴィーは、冷酷で残忍なホムンクルスとして数々の悲劇を引き起こしてきた存在だ。
人間を見下し、あざ笑い、弄ぶ——少なくとも、表向きはそのように振る舞っていた。しかし最期の瞬間、エンヴィーは自らの本心をあらわにする。それは、強烈なまでの人間への嫉妬だった。人間をさげすんでいた理由は憎しみではなく、自分たちが持たぬ“絆”や“信念”に対する劣等感だったのだ。
「人間に嫉妬してるんだ」自分が見下してきたはずのエドワード・エルリックから本心を見透かされ、同情や憐れみを向けられる。その屈辱的な現実に耐えきれず、エンヴィーは自ら命を絶つことを選んだ。
彼が犯してきた罪は、決して許されるものではない。それでも、その最期は単なる悪役の退場劇では終わらなかった。
誰よりも人間を軽蔑していた存在が、実は誰よりも人間的な感情に縛られていたという皮肉。その本心を最後にさらけ出したからこそ、エンヴィーの最期は読者の胸に重い余韻を残す結末となったのだ。


