■『孤狼の血 LEVEL2』“逃げ場のない恐怖”を生々しく表現
柚月裕子さんによる警察小説を原作とする『孤狼の血』は、2018年の第1作に続き、2021年に続編『孤狼の血 LEVEL2』が公開された。こちらは、原作にはない展開を描く完全オリジナルストーリーである。
伝説の刑事・大上章吾の死後、その遺志を継いだ日岡秀一が裏社会の均衡をかろうじて保っていたが、出所してきた“悪魔”と呼ばれるヤクザ・上林成浩の登場により、広島の街の秩序は崩れていく。
本作で鈴木さんが演じた上林は、公開当時から“最凶ヤクザ”と称されてきた存在だ。しかし、その恐ろしさの本質は、暴力描写の残虐さや怒号の激しさにあるわけではない。真に不気味なのは、上林という人物の内側に潜む「歪んだ人間性」が、恐ろしいほど自然に、かつ繊細に表現されている点だ。
作中で描かれる、上林による暴力は過激だ。とりわけ、何の躊躇もなく相手の目をえぐるシーンは、観る者が思わず目を背けたくなるほど生々しい。だが真の恐怖はその行為自体よりも、上林がそれを“当たり前のこと”のように淡々とやってのける点にある。常軌を逸した残虐行為に及びながら、その表情は驚くほど穏やかであり、その異様なギャップが観客から心のよりどころを奪い去る。
鈴木さんの演技は、悪役をステレオタイプな怪物として描かない。どこか現実にいそうな人間味をまとわせつつも、倫理観という越えてはならない一線を平然と踏み越えてみせる。その生々しさこそが、上林を単なる“フィクションの悪”の領域にとどめず、観る者に「案外身近にこんな人物がいるかもしれない」という恐怖を感じさせる理由だ。
役作りに際し、鈴木さんは上林の行為を単純な「悪」と断ずるのではなく、彼なりの倫理や正義を理解しようと試みたという。自身の倫理観を一度崩し、キャラクターの内面世界に深く入り込む。そうして生み出されたリアリティが、鑑賞後も観客の心に長くまとわりつく、忘れがたい恐怖の源となっているのだ。
実写化作品において、優れた悪役は時に主役以上に観客の記憶に刻まれる。鈴木さんの演じた悪役たちは、まさにその好例といえるだろう。
鈴木さんは、肉体改造やビジュアルのインパクトといった外面的な要素だけで観客を圧倒するのではない。声の質感、視線の配り方、呼吸のリズムに至るまで細かく作り込み、リアリティと存在感を生み出す。だからこそ、我々は画面越しでありながら、圧倒的な恐怖を感じさせられるのだ。


