今年連載30周年を迎えた板垣恵介氏による『刃牙』シリーズの第1作『グラップラー刃牙』(秋田書店)は、異種格闘技の魅力を教えてくれた漫画のひとつである。
数ある格闘技の中で何が最強かという問いは、格闘技好きであれば誰もが一度は考えたことがあるはずだ。しかし、『グラップラー刃牙』は多彩な格闘家が登場するだけでなく、それぞれの枠を超え“何でもあり”にすることで、よりいっそう戦いの幅を広げてくれた。中でも「最大トーナメント編」はそんな戦いの連続で、勝敗の予想が難しい試合が続いた。
そこで今回は、「最大トーナメント編」での全試合の中から、ベストバウトを選んでみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■まさかの展開に手に汗握った、柴千春vsアイアン・マイケル
自分の強さに自信を持っているのは、何も格闘家ばかりではない。鍛えることを一切せず喧嘩に明け暮れる暴走族の特攻隊長、柴千春もまたトーナメントに参加していた。彼の対戦相手は、なんとボクシングの世界ヘヴィ級王者であるアイアン・マイケルだ。
どう考えてもアイアンがあっさり勝つようにしか思えないこの一戦は、まさかの展開を迎える。普通に戦っては勝てないと分かっている千春が奇策に出たのだ。彼はさらしで自分とアイアンの足首を結びつけ、動きに制限をかけた。いわゆるチェーン・デスマッチに似た状況を作り上げたわけだ。
千春はこれ以前にも、ギプスで殴りかかったり、目つぶしをしたりと、反則とされかねない行動を繰り返していた。しかし、徳川光成は周りの提言を無視して、“マイケルが抗議したら千春の反則負けを宣言する”という条件で試合を続行させる。
千春はトリッキーな動きでアイアンを翻弄し、やがて試合は素手での殴り合いへと発展した。最終的には、さらしも切ってしまいただの純粋なケンカになっていく。そんな中、アイアンの拳が粉砕されたのを見たセコンドが乱入し、試合中止に。千春の勝利という結果で終わった。
まさにこれは大番狂わせの一戦で、力や技を超えたものを感じさせてくれた。素人とプロがすべてを捨て真正面で殴り合う姿には、純粋な闘争はこうあるべきだと感じさせられた。
■全身全霊の一撃…愚地克巳vs花山薫
花山薫はヤクザの頂点に立つ男である。格闘技をしない主義の持ち主でもあり、生まれながらの力のみで格闘家に挑戦した。トーナメントについて“おめェら格闘家と喧嘩者である俺との意地のツッパリ合い”と語るだけあって、初戦では日本拳法の達人を相手に余裕の勝利をおさめている。
2回戦目の相手、愚地克巳は天才空手家界であり、神心会空手の創始者である愚地独歩の養子だ。“空手を終わらせた男”と独歩に言わしめるほど才能に溢れ、高度な空手の技を弱冠20歳で披露する腕前。そんな対照的な2人の対決にはワクワクさせられた。
克巳は花山を見くびった態度で試合に臨むが、彼の予想はあっけなく覆される。花山に圧倒的なパワーと戦闘センスを見せつけられ、あっという間に追い込まれた克巳は、逃げの姿勢を取らざるをえなくなった。しかし、逃げている間にダメージを回復させ、人間離れした技を繰り出してみせる。
その攻撃を受けた花山は一度は倒れるも、すぐさま起き上がって反撃に転ずる。本気を出さないとこの男には勝てない……。気絶寸前まで追い込まれ、ようやくそう痛感した克巳は、温存してあった必殺技「マッハ突き」を放つ。この技を受けた花山は立ったまま気絶し、試合は克巳の勝利で幕を閉じた。
この試合には、花山の生きざまが集約されており、それに触発された克巳の成長も見どころだ。克巳が花山の実力を認め、真摯に向き合って全身全霊で戦う姿には心が動かされる。


