■まさに奇策…対岸に陣を取られた圧倒的劣勢から渡河を成功させた黒羊丘の戦い

 黒羊丘の戦いでは、趙国の紀彗軍と対決することになった飛信隊。中央の丘を攻略するためには、何としても紀彗軍を突破しなくてはならない。前日に奇襲を受け、すでに前線を奪われていただけに、信たちは猛攻をかけて連勝を重ねて前線を押し上げていった。

 だが、これは敵側の策略だった。飛信隊を意図的に前進させ、川辺まで誘い込むのが目的だったのである。目の前の大きな川には橋も船もなく、対岸では紀彗軍の将・馬呈が陣を敷いて待ち構えていた。

 師である昌平君によれば、対岸に敵が陣取る状況でのこの「渡河の戦い」は橋か舟がなければ“無手の状況”となり、本来は長期戦に持ち込むしかないという。しかし、その日のうちに前線を押し上げる必要があった貂は、考え尽くした末に1つの奇策にたどり着く。それは、“飛信隊流の橋”を架けて川を渡るという前代未聞の作戦だった。

 前日に羌瘣が馬で渡河に成功していたことから、川を渡ること自体は可能であると貂は判断。渡河可能なポイントを2カ所見つけ、比較的浅く川幅が広いエリアには、信が率いる屈強な兵士たちを集めて向かわせた。

 そして、もう一方のポイントは道が狭くて大軍を送れないため、息の合った飛信隊生え抜き部隊を投入。しかし、敵将・馬呈もこれらのポイントには兵を配置しており、正面からの突破は困難だった。そこで貂は、“第3の橋”を架けることにするのである。

 その地点は水深が深く激流で、しかも対岸は険しい絶壁となっており、常識的には渡河は不可能。そのため、馬呈も兵を配置していなかった。

 この“第3の橋”を架ける方法として、まずは泳ぎの得意な岐鮑がなんとか対岸にたどり着き、ロープを固定。後続の部隊がそのロープを頼りに渡るという荒業だった。

 この困難な任務の指揮官に選ばれたのが、長く副長を務める渕である。彼は強い責任感で部隊を鼓舞して激流を乗り越え、絶壁を登り切り、ついに馬呈軍の横を突いて拠点を作った。

 これにより敵の注意が逸れたことで信の部隊も渡河に成功。その勢いで馬呈軍を撃破し、戦況を有利に進めることができた。

 奇策な策略と的確な人選が完璧に噛み合ったこの戦術は、貂が軍師として師・昌平君に一歩近づいたことを思わせるものだった。

 

 今や貂は、飛信隊には欠かせないブレーンである。初登場時からは想像も付かないほど、信と同様にとんでもない成長を遂げたキャラクターだ。

 嬴政の危機には何度も駆け付け、信や山民族の王・楊端和と同様に、秦王・嬴政を呼び捨てにして対等に話すことができる希少な存在でもある。

 原作では数万規模の軍へと成長を見せる飛信隊だが、その快進撃を支える貂の秘策から、今後も目が離せない。

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