■救済と制裁。物語を象徴する第1話「悲しみを継ぎし者」
数あるエピソードの中でも、本作を最も端的に示しているエピソードとして第1話「悲しみを継ぎし者」を紹介したい。ここにはサスペンスとしての緊張感、かずいのダークヒーローとしての魅力、そして作品全体を貫く重厚な倫理観が極めて分かりやすい形で凝縮されている。
物語は、刑事の補導から逃れるため、かずいが営む奥森医院に逃げ込んできた女子高校生・山下夜志保との出会いから始まる。診察を通じて彼女が語ったのは、不良の喧嘩で刺殺されたとされる恋人・伊藤鉄也の死への疑念と、自らを苛む自責の念であった。精神的に限界まで追い詰められた彼女を救うため、かずいは同意のもと、伊藤に関するすべての記憶を彼女の中から消し去るという究極の「治療」を施す。
心の重荷から解放され、晴れやかな笑顔を取り戻した夜志保。しかし、物語はそこから容赦のない悲劇へと転落していく。
実は、伊藤を殺害したのは、彼女を補導しようとしていた刑事その人であった。彼は押収した麻薬を横流しするため、夜志保の恋人である伊藤を手先として利用していた汚職刑事だったのだ。真相に繋がる可能性を危惧した刑事は、補導と称して執拗に追い回し、ついには口封じのために、ついには彼女の腹部へナイフを深く突き立てる。
死の恐怖という極限状態の中、かずいによって消されたはずの記憶も蘇り、彼女は息絶える直前に電話ボックスからかずいへ真相を告げる。そして「先生…助けて… 死ぬの怖い…」という悲痛な叫びを最後に、少女の命は無惨にも散ってしまった。
この瞬間、かずいからは穏やかな医者の顔は消え、冷徹な「マインドアサシン」の表情へと変わる。高架下、暗闇の中で刑事を待ち受けたかずいは、その頭部に触れてすべての記憶と精神を破壊した。生かしも殺しもせず、ただ心臓が動いているだけの「抜け殻」に変えるという残酷な方法で罪を償わせるのだった。
本作には、この他にも、マインドアサシンの力が純粋に患者の救済のみに使われるハートウォーミングなエピソードや、逆に暗殺者などとの手に汗握る対決を描いたハードな物語も存在する。
『週刊少年ジャンプ』本誌での連載は1年足らずで終了したが、本作が読者に与えたインパクトは絶大であった。その証拠に、連載終了後も増刊号や『月刊少年ジャンプ』(集英社)での掲載、さらには小説化やドラマCD化へとさまざまなメディアで物語が紡がれ続けた。まさに「知る人ぞ知る名作」として、根強い人気を誇っている証だと言えるだろう。
いわゆる“王道のジャンプヒーロー”とは一線を画す、「記憶の抹消」という名の制裁、そして「忘却」という究極の優しさ。『MIND ASSASSIN』は、連載から30年近く経った今もなお、我々の心に静かに染み渡り続けているのである。


