「バスケットボール」という競技は、コンマ1秒先まで何が起こるか分からない。特に、バスケ漫画の金字塔『SLAM DUNK』(井上雄彦氏)においては、勝利を確信したその一瞬の油断が、天国から地獄へと一気に突き落とされる残酷な結末として描かれてきた。
死闘の末に手繰り寄せたはずの勝利が指の隙間からこぼれ落ちる……そのあまりに無慈悲な「大どんでん返し」は、連載終了から長い年月が経った今なお、多くの読者の記憶に焼き付いている。
今回は、そんな天国から地獄へ突き落とされた衝撃の展開を3つ振り返りたい。
※本記事は作品の内容を含みます
■勝利を確信した桜木、その一瞬の油断を突いた仙道の速攻
主人公・桜木花道にとって初の試合となったのが、陵南高校との練習試合だ。
試合終了間際、スコアは「84対85」で陵南が1点リード。パスを回して時間を稼ぐ陵南に対し、湘北高校キャプテン・赤木剛憲が執念のパスカットを見せる。そしてボールは流川楓に渡り速攻を仕掛けるが、陵南エース・仙道彰が立ちはだかった。体勢を崩した流川は、味方のユニフォームだけを確認し、とっさにパスを出す。だが、その先にいたのはバスケットを始めたばかりの初心者・桜木だった。
逆転の絶好の機会であったが、派手なプレイを好む桜木だけに、湘北ベンチもコート上の仲間も、「ムチャはよせ!!!」と同じ言葉を心の中で叫んでいた。だが、赤木晴子の声援のおかげもあり、意外にも桜木は「置いてくる!!!」と、基本に忠実なレイアップシュートを選択。このシュートが見事に決まり、なんとバスケ初心者が土壇場で逆転を呼び込むのだった。
しかし、地獄はその直後に待っていた。この時点で、勝利を確信して大はしゃぎしてしまう桜木。陵南のエース・仙道が、この一瞬の隙を見逃すはずがなかった。
そして、試合終了残り数秒、仙道は電光石火の速攻でゴールへ切れ込み、必死に戻った赤木と流川を翻弄するかのように、空中でダブルクラッチ。再逆転のシュートが決まり、そのままタイムアップとなった。
勝負は最後まで分からない。呆然と立ち尽くし、敗北を受け入れきれない桜木の姿は、“勝利を確信した瞬間の油断”がいかに危ういものかを、読者の心にも強烈に刻み付けたのである。
■入ったはずの三井3P、指先で軌道を変えた清田の執念
神奈川県インターハイ予選での湘北と王者・海南大附属高校との激闘は、まさに「あと一歩」が届かない展開の連続であった。その最たる場面が、試合終了間際の攻防である。
試合残り19秒、スコアは「88対90」で海南がリードする緊迫した状況だった。
海南キャプテン・牧紳一の上から叩き込んだ桜木のダンクが決まり、さらに、ディフェンスファウルによりバスケットカウントを得る湘北。だが、1点だけ取り返しても逆転はできない。桜木はフリースローをあえて外し、赤木にリバウンド勝負を託す。
その作戦は功を奏した。足首の負傷を抱える赤木だったが、痛みで顔を歪ませながらもリバウンドを制し、「逆転のチャンスはここしかない」と3Pの名手・三井寿にパスを出す。
何千、何万回と繰り返してきた3Pシュート。ボールを放った直後、三井はその成功を確信し、フォロースルーの右手をグッと握りしめた。だが、その確信とは裏腹にボールはリングを弾き、そして続く桜木の痛恨の“あの”パスミスにより、試合はあっけなく終わってしまうのである。
なぜ、三井のシュートは外れたのか。その理由は試合終了後に明らかとなる。海南のルーキー・清田信長の指先からは血が流れていた。ほんの数ミリの差がシュートの軌道を変え、湘北の勝利を奪い去ったのだ。
「常勝海南」で受け継がれる勝利への執念。この敗北は、湘北に実力差だけではない、王者の壁の厚さを突きつけたように見えた。


