1990年代、『週刊少年ジャンプ』(集英社)が空前の発行部数を記録していた黄金期。その誌面において、王道のバトル漫画とは一線を画す異質な存在感を放っていたのが、光原伸氏による『アウターゾーン』である。
本作は、我々の住む現実世界のすぐ隣に存在する不可思議な異次元世界「アウターゾーン」へと迷い込んだ人々の運命を描く、オムニバス形式のホラー作品だ。そこには派手な必殺技も、単純な勧善懲悪もない。日常の些細な綻びから、いつの間にか怪異へと引きずり込まれていく恐怖、そして読後に残る言い知れぬ不気味さは、当時の読者の記憶に爪痕を刻みつけた。
今回は、数あるエピソードの中から、特に「怖すぎて忘れられない」珠玉の3話を振り返ってみたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます。
■最愛の妻を蘇らせる禁断の儀式「血と爪」
数あるエピソードの中でも、愛する人を失った絶望と、そこから生まれる底知れぬ業を描いた屈指の悲劇が、第9話「血と爪」である。
主人公・真船は、幼馴染の夕紀と結婚し、幸せの絶頂にいた。しかし、その幸せはあまりにも唐突に、無残に打ち砕かれる。真船がわずかに家を空けた隙に、夕紀は何者かによって命を奪われてしまうのだ。
絶望に沈む彼の前に、配達員にふんした案内人・ミザリィが1冊の不気味な本を届ける。そこには、禁断の「死者を蘇らせる方法」が記されていた。
死者の体の一部を土に埋め、7日間人間の鮮血を注ぎ続けるという異様な儀式。愛ゆえに取り憑かれたように執念を見せる真船は、夕紀の「爪」を植木鉢に埋め、自らの腕を切り刻み、一滴、また一滴と自らの命を削るように血を与え続ける。
儀式は着実に進み、爪は指へ、指は手へと再生していく。しかし、本には完全な復活のためには「魂」が必要だと記されていた。真船は“ある決意”のもと、生前から2人を知る同僚を自宅へ招き入れる。
だが、物語はここから一気にサスペンスへと転じる。真船の真意は、自らの魂を捧げて夕紀を蘇らせ、その後を同僚に託すつもりだった。しかし、偶然にも招かれたその同僚こそが、夕紀に想いを寄せ、身勝手に彼女を殺害した真犯人だったのである。
「きさま… 気づいてやがったんだな!!」と逆上し、真船に襲いかかる犯人。絶体絶命の瞬間、土の中から再生途中の夕紀が這い出し、犯人の腕をつかむ。すると、その魂は瞬く間に吸い尽くされ、男は砂のように崩れ落ちていった。
皮肉にも、夕紀の命を奪った男の魂が「代わりの生贄」となり、彼女は現世へと蘇った。愛の執念が招いたこの衝撃的な結末は、救いでありながらもどこか歪んでおり、当時のジャンプ読者の心に、決して消えない深い爪痕を残したのである。
■父を殺した呪いの絵「悪魔の棲む家」
次に紹介するのは、視覚的な恐怖と手に汗握る展開が記憶に残る、第12話「悪魔の棲む家」だ。
主人公・浩二は、幼い頃に父の無残な死を目の当たりにして以来、十数年ものあいだ悪夢にうなされ続けていた。その原因となったのが、父の遺体のそばに残されていた一枚の絵画。「断頭の家」と呼ばれるその絵には、古びた小屋の窓から異形の怪物がこちらを覗き込む、不気味な光景が描かれている。
成長した浩二は、ある日立ち寄った画廊で、その絵と偶然にも再会する。店主として現れたミザリィは、すべてを見透かしたような微笑みを浮かべ、「その絵をひと晩中見つめ続けてごらんなさい…」「きっと何かが起こるハズよ」と、不穏な助言を与える。
妹・絵理とともに夜通し絵を見張る浩二。しかし、何事も起こらないまま時間だけが過ぎていく。ところが、浩二が席を立ったほんの一瞬の隙を突き、なんと絵の中から怪物の手が伸び、絵理を絵の世界へと引きずり込んでしまうのだ。
絵の中の小屋に閉じ込められた絵理が目の当たりにしたのは、父をはじめとする犠牲者たちの首が転がる地獄絵図であった。さらに、人間と無数の虫をつぎはぎしたような怪物のグロテスクな造形は、生理的な嫌悪感とともに、今見ても背筋が寒くなる。
絶体絶命の窮地。ここで浩二が見せた機転こそ、本エピソードの一番の見どころといえるだろう。物理的に傷つけられない絵の世界に対し、浩二は油絵具を手に取ると、絵の中のドアを真っ黒に塗りつぶし、絵理のために「出口」を作ったのである。さらに、現実世界にまで這い出てきた執念深い怪物には、それが“描かれた存在”であることを逆手に取り、油絵具用の溶剤を浴びせて「溶かして倒す」という、実に鮮やかな方法で決着をつけた。


