■凶器の台座を消すという逆転発想「アイドル密室殺人事件」

 最後に紹介するのは、「アイドル密室殺人事件」(原作コミックス1巻、アニメ第3話)。シリーズのごく初期のエピソードでありながら「消えた凶器」という発想の原点ともいえる巧妙なトリックが描かれている。

 人気アイドル・沖野ヨーコが、「誰かに監視されている」と毛利探偵事務所に相談に訪れる。小五郎たちが彼女の自宅マンションに向かうと、そこで発見されたのは、背中に包丁を突き立てられて絶命しているヨーコの元恋人の無惨な姿であった。

 一見すると他殺にしか見えない事件。しかし、その真相はあまりにも歪で切ないものであった。

 人気アイドルとなったヨーコの所属事務所の圧力により、別れを選ばざるを得なかった元恋人。彼はもう一度話がしたいと願ったものの、彼女に拒絶されていると勘違いしてしまう。その結果、愛情が絶望と恨みに変わり、彼は自ら命を絶つことでヨーコを殺人犯に仕立て上げようと計画したのだ。

 この偽装工作に使われたのが、時間とともに跡形もなく消える「氷」である。被害者は氷で台座を作り、包丁を立てて固定。そこを目がけて、椅子の上から背中から飛び降りたのだった。さらにエアコンの温度を上げておき、氷を溶かすことで、遺体発見時には凶器だけが残る“他殺の偽装”を完成させたのである。

 しかし、床に残っていた水たまり、包丁の柄によってできた床のへこみ、不自然に設定された室内の温度などから、コナンによって解決へと導かれる。

 凶器を隠すのではなく、凶器を支えていた台座を消すという逆転の発想は、初期『名探偵コナン』の中でも秀逸なトリックとして語り継がれている。同時に、自らの命を引き換えにしてまで相手を破滅させようとした犯人の執念は、シリーズ序盤にして、本作が単なる推理漫画ではないことを強く印象づけた。

 

 私たちがふだん何気なく目にしている「爪」や「ハンガー」、あるいは「氷」でさえも、ひとたび人間の悪意が介在すれば、跡形もなく消え去る恐ろしい凶器、あるいはその仕掛けの一部へと変貌を遂げる。

 しかし、どれほど巧妙に、もしくは偶然によって凶器が姿を消そうとも、真実そのものを完全に消し去ることはできない。わずかな違和感を見逃さない観察眼と、真実を追い求める執念こそが、コナン最大の武器なのである。

 次はいったいどのような驚きのトリックが登場するのだろうか。コナンの戦いは、これからも続いていく。

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