鬼の始祖・鬼舞辻無惨との長きにわたる戦いを描いた『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴氏)。鬼によって家族を殺されたり、愛する者を鬼に変えられた者たちが命を懸けて戦う姿は、多くの読者の心を掴んで離さない。
本作において、鬼殺隊士たちの鬼に対する恨みや怒りは時に絶大な力となり、見どころの1つになっている。そして、直情的な怒りだけでなく、背筋が凍るような静かな怒りもまた印象的だ。
そこで今回は、鬼殺隊士が見せた「最も静かな怒り」に注目し、紹介していこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■あの優しい少年が…竈門炭治郎の“見せられないほど怖い顔”
いつもは穏やかで心優しい主人公・竈門炭治郎が静かに怒りを露わにしたのが「鼓屋敷編」でのことだった。炭治郎は指令を受け、同じく新人隊士の我妻善逸と共にある屋敷へたどり着く。
“鼓の鬼”が巣食うその屋敷からは重傷を負った人間が降ってくるなど、一刻を争う事態だった。そこで炭治郎はすぐに屋敷に向かおうと善逸を促すが、恐怖におののく善逸はそれを拒否。
その様子を見た炭治郎は、沈黙ののち「そうか わかった」とだけ答えた。しかし、その炭治郎の顔を見た善逸は「なんでそんな般若みたいな顔すんだよォ——ッ」「行くよォ——ッ」と彼にすがりつく。
泣きながら訴える善逸に「無理強いするつもりはない」と答えた炭治郎であったが、そのわずかに見える目元は般若面のように吊り上がり、相当な怒りを抱いていることがうかがえる。
善逸の言う「般若みたいな顔」は、後ろ姿のみの描写のため見ることはできないが、彼の怯え方からすれば、よほど恐ろしいものだったのだろう。
人が悪戯に殺され、兄がさらわれ幼い兄妹が恐怖に震えている緊急事態において、私欲で尻込みする善逸の姿に、さすがの炭治郎も堪忍袋の緒が切れたのかもしれない。
とはいえ炭治郎は、鼓の屋敷に向かう道中でも、一般人の少女にすがりつくなど迷惑な行動を取る善逸に対して軽蔑した視線を向けていた。この時点から、善逸に対する不満がすでに溜まっていたのかもしれない。
あの温厚な炭治郎をここまで怒らせることができる善逸は、ある意味で最も大物なのかもしれない。普段の優しさとのギャップが恐怖を倍増させていた。
■笑顔で告げる残酷な提案…鬼への怒りを秘めた胡蝶しのぶ
穏やかな口調に底知れぬ怒りを秘めていたのが、蟲柱・胡蝶しのぶだ。
「那田蜘蛛山編」で姉蜘蛛に出会ったしのぶ。姉蜘蛛は圧倒的な強さの彼女に圧倒され、命乞いをする。すると、しのぶは「何人殺しましたか?」と尋ね、鬼と“仲良くする”ために必要な質問だと語る。その問いに対し、姉蜘蛛は「五人」と少なく申告した。
しかし、しのぶは姉蜘蛛が少なくとも80人は喰っていると嘘を一蹴。にこやかに「人を殺した分だけ私がお嬢さんを拷問します」と言い放ち、そして「目玉をほじくり出したりお腹を切って内臓を引き摺り出したり」と、具体的な拷問内容も穏やかかつ楽しそうに語るのだった。
しのぶの言葉に神経を逆撫でされた姉蜘蛛は反撃に出るが、「蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ」で毒を注入された姉蜘蛛は苦しみながら息絶えている。
しのぶは、最愛の姉・胡蝶カナエを鬼に殺された深い憎しみを抱えながらも、姉の遺志である“鬼と仲良くする”という夢に縛られ続けていた。その矛盾が、笑顔で拷問を語るという矛盾した行動に至ったのである。
助かるかもしれないと期待させたのちの、この絶望的な展開。本当に怒らせてはいけないのは、しのぶのような人物なのだろう。


