青山剛昌氏による人気漫画『名探偵コナン』(小学館)は、長年にわたり多くのファンに愛されている。本作の大きな魅力は個性豊かな登場人物にあり、それぞれが独自の視点で事件にかかわっていく。
主人公・江戸川コナン(工藤新一)同様、優れた推理力を持つ人物は作中に何人も存在するが、中でも父親の工藤優作は別格である。世界的な推理作家でもある優作は、わずかな手がかりから事件の全貌を解き明かし、その能力は息子である新一をしのぐといっても過言ではない。
そこで今回は、優作の活躍エピソードを通し、彼の卓越した推理力や人間性を振り返っていこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■コナンの推理の間違いを指摘
優作が新一を上回る推理力をしめすエピソードとして、原作コミックス第14巻収録の「追いつめられた名探偵! 連続2大殺人事件[2]」が挙げられる。
コナンと母の工藤有希子は、有希子の幼なじみ・籔内広美の実家を訪れた際、叔父の義房について調べてほしいと頼まれる。
広美の父である義親が亡くなり、籔内家は相続問題真っ最中。そんな中、ブラジルから久しぶりに帰国した義房は、カルロスというボディガードをつけ常に警戒している。広美は彼の雰囲気が昔と違うように感じ、違和感を抱いていたのだ。
案の定、コナンたちは遺産相続をめぐる事件に巻き込まれてしまう。義親の後妻・真知子が殺害され、屋敷付近で目撃されたサングラスの不審な人物に容疑が向けられた。
そんな中コナンは、真知子に殺されそうになった義房が、彼女を返り討ちにして殺害してしまったと推理する。その推理はおおむね正しかったが、コナンは重要な点を見落としていた。それを指摘したのが例のサングラスの人物。その正体はなんと変装した優作だった。
優作は、今ここにいる義房が別人であり、故人である本物の義房の実子・カルロスを遺産争いから守るために影武者を演じていたという真相を明かす。
優作は屋敷の中に隠れながら着々と情報を集め、真相にたどり着いていた。これにはコナンも驚きを隠せず、偽の義房も観念する。しかも優作は、義房を少し見ただけですぐ彼が偽物だと見抜いていた。この点からも、彼の洞察力がコナンを上回っていることが分かる。
■関係者を思いやり、あえて未解決に
続いては、優作の人間性がよくあらわれているエピソードとして、コミックス第77巻収録の「工藤優作の未解決事件[コールド・ケース]」を紹介したい。
タイトルだけを見ると、完璧人間の優作が“解決できなかった”事件のように見えるが、これは“あえて未解決という形を選んだ”というのが正しい。
優作がその決断をしたのは、事故死した保育園園長の第一発見者である5歳の少年を、世間の非難から守るためだった。
倒れている園長を発見した少年は、彼が天国に行けるようにという純粋な気持ちで花とドロップを供えた。しかし、その後遺体から流れた血と、犬がドロップを持ち去ったことが重なり、現場には偶然にも「死」という血文字のような痕跡だけが残された。これによって、ただの事故が猟奇殺人事件だと誤解されてしまうことに……。
しかし、優作は誰よりも早く事件の全貌を解明し、事件性がないと判断。騒ぎを大きくしないよう、事件から手を引くと宣言した。それは、少年が“不謹慎なイタズラをした”と非難されるのを防ぐための優しさだった。
事情を知らない者たちは、この1件を“工藤優作がサジを投げた事件”と勘違いして語り継いでいたが、その裏には子どもを守るための優作の深い配慮があったのである。
自らの名誉が傷付くことをいとわず関係者を守るという配慮は、まだ若く経験の浅い新一には難しいかもしれない。


