■肘の故障と父親の死をきっかけに訪れた更生
2年生の夏までは、圧倒的な実力と狡猾な策略で千川高校に立ちはだかる高い壁だった広田だが、肘の故障をきっかけに、そのポジションは大きく変わっていく。
2年生の夏、地方大会決勝戦で肘の負傷が発覚し、投手を断念する。さらに、彼のラフプレーを容認・後押ししていた城山義明監督が辞任し、後任の新監督は広田を試合で起用しようとしなかった。野球の天才から一転、部内での居場所を失い、落ちぶれてしまうのである。
一時は自暴自棄に陥った広田であったが、全てを失ったことで、自身の中にあった“純粋に野球を愛する心”に気づくこととなる。その気持ちを見抜いて温かく見守ってくれた新監督の想いや、自身の人格形成に歪んだ影響を与えた父親との死別を経て、彼は徐々に立ち直っていく。
2年生秋の地方大会では「4番ファースト」で出場。ミスをしたチームメイトに「ドンマイ」と声をかけるなど、かつての彼からは想像もつかないほど穏当な高校球児へと変貌を遂げていた。
3年生になる頃には、将来的に“趣味”として野球を楽しむ可能性を残すため、野球部を引退する道を選んだ。コミックス第29巻で比呂と再会し「趣味の草野球ならいつでもつきあうからなァ」と声をかけられた時、彼はこんな独り言をつぶやいた。
「趣味の草野球……だと?」
「てめえらにゃ一生ムリだ。 化物め……」
少し前まで、自分もその「化物」の1人であった広田。だが、その彼の表情は憑き物が落ちたかのようにどこか清々しく、穏やかだった。
個人的に「広田勝利」というキャラクターを形容するのであれば、“紆余曲折”という言葉が似合うように思う。物語当初は比呂たちの前に立ちはだかる悪役であったが、怪我という挫折をきっかけに野球や父親と向き合って改心し、最終的には口は悪くても他人を気遣う味のある人物へと成長した。
多くのキャラクターが高校野球を通して変わっていく『H2』だが、その中で人間的に劇的な進化を遂げたのは、広田ではないだろうか。
「人はいつからでも変われる」。彼はそれを体現した、3人目の「HERO」だったのかもしれない。


