3人目の「HERO」は彼だった…あだち充『H2』強烈ヒール「広田勝利」という逸材の画像
少年サンデーコミックス『H2』(小学館)第1巻

 あだち充氏が描く高校野球漫画の金字塔『H2』(小学館)。本作には、2人の「HERO」が登場する。主人公の国見比呂の「比呂(ひろ)」は「HERO」の当て字であり、ライバル・橘英雄の「英雄(ひでお)」は、文字通り「英雄(えいゆう)=HERO」を意味する。ここに雨月ひかり、古賀春香という2人のヒロインを交えた四角関係の青春物語こそが『H2』といえるだろう。

 だが、この「H」の法則に当てはめると、作中には3人目の「HERO」が存在することに気づく。それが栄京学園高校の4番エース、広田勝利(かつとし)だ。作中随一の野球センスを誇りながら、勝利のために手段を選ばないその姿は、ヒーローどころか「ヒール(悪役)」そのものであった。

 しかし、その一方、高校野球を通して大きく成長し、変化を遂げた広田に魅力を感じる読者も少なくない。今回は、3人目のヒーローでありながら、強烈なヒールとして活躍した広田がどんなキャラクターだったか振り返ってみたい。

※本記事には作品の内容を含みます

■ラフプレーも策略もあくどかった…『H2』では珍しい完全な悪役

 「スポーツマンシップにのっとり、正々堂々と戦うことを誓います!」甲子園の選手宣誓でお馴染みのフレーズだが、この精神から最も遠い所にいたのが広田勝利という男だった。

 まず、試合中におけるラフプレーに全くためらいがない。1年生の時の秋季地区大会では、強打者の英雄にデッドボールを与える一幕がある。故意か事故かは明言されていないが、明らかに狙った一撃であった。

 英雄は直後の打席でホームランを打って意地を見せるものの、ぶつけられた左腕は骨折しており、途中退場を余儀なくされた。

 続く春の甲子園準決勝でも、広田は相手エースの足を負傷させる挙動を見せ、栄京学園はそのまま優勝。広田は1年生の4番エースとして、全国制覇という偉業を成し遂げた。

 広田のヒールぶりはグラウンドの中だけに留まらない。同地区のライバル校である千川高校に、いとこの大竹文雄と島オサムを入学させ、スパイとして野球部を内部から妨害させようと画策したこともある。

 「勝利」の名に執着するかのように、広田は勝つためには手段を選ばない。爽やかな高校野球と、甘酸っぱい恋愛が入り混じる『H2』の青春物語において、彼のような徹底した悪役はとても珍しい存在だった。

■英雄から予告三振、比呂からホームラン! 正攻法でも強かった

 広田の厄介なところは、純粋に野球選手としても超優秀だったことだろう。才能だけなら、比呂や英雄を凌ぎ、作中ナンバーワンといっても過言ではない。

 前述した英雄へのデッドボールにしても、それは実力で英雄に敵わないから選んだ手段ではない。事実、広田はその前の打席で英雄に対して「予告三振」を宣言し、難なく捌いている。打ち取られた英雄をして、“投手としての才能なら比呂以上かもしれない”と言わしめるほどだった。

 バッティングのセンスも規格外である。コミックス第7巻での練習試合では、「打者・広田」と「投手・比呂」の直接対決が何度か描かれているが、そこで広田は比呂の全力投球を完璧に捉えてホームランを放っている。

 また、その後の公式戦でも広田は再び比呂からホームランを打っており、作中、ここまで比呂の球を打ち砕いたバッターは彼以外に存在しない。

 投打の両面で2人の「HERO」を圧倒した経験を持つ広田の実力は、疑いようもない。彼は2年生の夏に肘を故障してしまうという悲劇に見舞われるが、それさえなければ、高校野球のみならず、プロの世界でも活躍できたのではないだろうか。

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