■メルエムとコムギ、最期の軍儀

 冨樫義博氏による『HUNTER×HUNTER』(集英社)で描かれた、キメラ=アントの王メルエムと軍儀の天才少女コムギの最期は、作中屈指の名シーンとして語り継がれている。

 絶対的な強者として君臨し、人間を餌程度の存在としか見ていなかったメルエム。しかし、目が見えない少女・コムギとの出会いが彼の運命を大きく変える。

 盤上競技・軍儀を通じてコムギと心を通わせるうち、メルエムの中には人間に対する慈悲が芽生える。自らの変化に戸惑いコムギを殺害することも考えたが、彼女が他者に傷つけられた際には、考えるより前に守ってしまったほどだった。

 やがて、メルエムはアイザック=ネテロとの死闘の末、爆弾「貧者の薔薇(ミニチュアローズ)」の毒に侵され、自らの死期を悟る。

 メルエムは残された時間を、コムギと軍儀を打って過ごすことを選ぶ。彼の運命を知ったコムギもまた、自分に毒が伝染する危険性を知りながら王とともにあることを決意した。2人は静かに盤を挟み、やがてメルエムが先に息絶えてしまう。

 コムギの膝の上で安らかに眠るメルエムと、その手を握るコムギの姿は、多くの読者の涙を誘った。2人がそれぞれ残した「この日のために生まれて来ますた…!」「この瞬間のために生まれて来たのだ…!!」という言葉は、彼らの物語の終着点としてあまりにも美しい。

■自分の命と引き換えにお茶子を助けたトガ

 堀越耕平氏による『僕のヒーローアカデミア』(集英社)の敵(ヴィラン)・トガヒミコが最期にとった選択も、非常に感動的なものだった。それが、敵対していたヒーロー・麗日お茶子を救ったシーンだ。

 敵同士として激しい戦いを繰り広げる中、トガはお茶子との対話を通して心を揺さぶられていく。

 個性の影響で生まれた「血液に対する異様な執着」のせいで両親に否定され、社会からは「異常者」として拒絶され続けてきたトガ。しかし、お茶子はそんな彼女と対等に向き合おうとし続け、その姿勢は致命傷となる一撃を与えられても変わらなかった。

 ずっと化け物として扱われ、普通になりたくてもなれなかった過去について吐露し、トガはお茶子に「私…カァイイ?」と涙ながらに問う。それに対し「世界一」と答えたお茶子のまっすぐさは、トガの心を溶かしていった。

 その後、瀕死のお茶子を救うため、トガはこれまで他者の血液を奪うために使っていた個性と道具を使って、自身の全血液を輸血する。それによりお茶子は一命をとりとめるが、トガは静かに息を引き取った。

 その最期は悲しく切ないものだったが、彼女の表情は満足げだった。誰にも受け入れてもらえなかったからこそ、敵でありながら自分と向き合ってくれたお茶子の存在は、彼女にとってかけがえのないものとなったのだろう。

 

 今回紹介した敵キャラクターに共通するのは、最期の瞬間に自分自身と向き合い、他者との絆や理解など、本当に欲しかったものを手に入れた点にある。だからこそ、彼らの死は単なる敗北ではなく、感動的な物語の結末として見る者の心に深く刻まれるのである。

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