■5000万円請求のはずが1本の風車「タイムアウト」
最後は、数あるエピソードの中でも、B・Jの粋な対応がカッコ良すぎる「タイムアウト」を紹介したい。
ある日、大渋滞の中でトラックの荷崩れ事故が発生し、タカシという名の幼児が鉄骨の下敷きになってしまう。鉄骨を動かそうにもクレーン車は渋滞で現場に到着できず、一刻を争う状況であった。そこでB・Jは、自ら鉄骨の隙間に潜り込み、その場でタカシの四肢を切断して救出し、のちにつなぎ直すという驚異的な手術を成功させる。
事故の原因を作った建設会社の社長は、当初は「費用はいくらでも払う」と約束していた。しかし、手術が成功すると態度は一変。後ろの小型トラックが追突したせいだなどと言い訳を並べ、約束を反故にする。自身の命も危ぶまれるような大手術に対し、5000万円を請求していたB・Jだが、大人たちの身勝手な事情により報酬は支払われずじまいとなってしまった。
しかし後日、病院のベッドで元気になったタカシが、B・Jにニコニコしながら「風車」を差し出す。するとB・Jは「いただいておこう」「五千万円のかわりだ」と笑顔でそれを受け取るのだった。
5000万円という巨額の請求をたった1本の風車でチャラにし、それを手に街を去っていくB・Jの姿が非常に印象的なこのエピソード。このように、卑怯な依頼者によって報酬が支払われないケースも少なくないが、それでも弱き者を助ける彼の姿勢は変わらないのである。
こうして振り返ってみると、B・Jは単にお金に執着しているのではなく、患者の状況に応じて「その人が支払える、命に見合った対価」を求めていることがわかる。それが時には数千万円であり、時にはラーメンや風車、あるいはぬいぐるみなんてこともあるのだ。
素直じゃないところもあるが、本当は誰よりも優しいブラック・ジャック。彼が受け取った一見価値のない報酬には、金額では測れないドラマが詰まっているのである。


