手術料はラーメン1杯!? 本当の価値を知る男…『ブラック・ジャック』B・Jが請求した「お金じゃない報酬」の画像
少年チャンピオン・コミックス『ブラック・ジャック』第9巻 (手塚プロダクション)

 孤高の天才外科医を描いた手塚治虫さんの『ブラック・ジャック』。医療漫画の原点にして最高峰ともいわれる本作は、連載開始から年月を経た今なお色あせることがない。

 ところで主人公のブラック・ジャック(以下B・J)といえば、一度の手術につき数千万円といった法外な治療費を請求することで知られている。しかし、彼は必ずしも金銭に固執しているわけではない。相手が支払うべき「本当の対価」を見極め、場合によっては現金以外のものを報酬として受け取ることもあるのだ。

 ここでは、そんなB・Jがお金以外の報酬を受け取った、人間味あふれるエピソードを紹介したい。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■手術料はラーメン1杯「ある女の場合」

 まずは、B・Jが「ラーメン1杯」を手術料として受け取ったエピソード「ある女の場合」を紹介する。

 物語は深夜の駅のホームから始まる。そこで1人の女性が突如として倒れてしまった。偶然その場に居合わせたB・Jは、設備も整わない駅舎の中で緊急オペをおこなう。女性は命を取り留めたものの、無一文で家を飛び出してきた身であり、高額な手術費は支払えなかった。そんな彼女に対し、B・Jは「いつかラーメンでもおごってくれ」と言い残して立ち去るのである。

 時が経ち、彼女は貿易商と結婚し裕福な身分となっていた。彼女は夫の収入から当時の手術料を支払うと申し出るのだが、金だけで塗り固められた人生を送る彼女をB・Jは皮肉り、金銭を受け取らずにその場を去る。

 しかし後日、彼女の夫である貿易商の男性が破産したというニュースが。その後、すべてを失った彼女は貧しいながらも自分の力で一生懸命に働き、B・Jと再会した際に、約束通りラーメン1杯分の報酬を渡すのだった。

 このエピソードでは、何も努力せず夫に出させる5000万円もの手術料よりも、貧しくとも自ら懸命に働いて稼いだラーメン1杯分の代金のほうがはるかに価値があることを伝えている。金額の多さではなく、その時々の患者の事情や心の在り方を見て対価を決めるB・Jの人間味が凝縮されたエピソードだ。

■人間の卵の殻が治療費に!?「奇胎」 

 次は、珍しい報酬と生命の神秘が詰まったエピソード「奇胎」を紹介したい。

 ある日、医学部時代の旧友とホテルに泊まり、彼から寄付金をねだられていたB・J。その矢先、ホテルの女性従業員が突然倒れ、救急病院へ運ばれる。彼女は妊娠6か月の身重であったが、異常妊娠と診断され、病院からB・Jのもとへ助けてほしいと手術依頼の連絡が入った。

 B・Jが妊婦の開腹手術をおこなったところ、お腹の中の胎児は石のような殻に包まれていた。これは非常に珍しい症例であったが、B・Jは慎重に殻を割り、胎児の命を救う。

 その後、ホテルに戻ったB・Jは、旧友から手術料はいくらだったのかと尋ねられる。すると彼は、手術で取り出した“人間の卵の殻”を取り出し、その半分を同僚に渡すのであった。

 B・Jが報酬として持ち帰ったのは、金銭ではなくこの神秘的な「卵の殻」だった。患者が貧しい夫婦であると察し、高額な請求ができない代わりに、この医学的に極めて希少な「殻」をあえて手術代としたのである。そこには、B・Jの命に対する真摯な姿勢と、彼なりの優しさが表れているだろう。

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