国民的刑事ドラマ『相棒』シリーズ(テレビ朝日系)の主人公・杉下右京。彼は警視庁きっての変わり者で、東大卒のキャリアとして圧倒的な推理力を持つ。博識でチェスの腕前は超一流、料理も得意など、なんでもできる完璧人間だ。しかし、そんな彼にも消し去りたい“黒歴史”が存在する。
それが、中学生時代に遊び半分で書いた小説『亡霊たちの咆哮』だ。この作品は作中で伝説の作品として語り継がれ、過去に二度登場。最新シーズンであるseason24でも再登場し、大きな話題を呼んでいる。
今回は、右京に平静を失わせるこの小説について、登場エピソードを通して振り返っていこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■初登場はseason4「監禁」
『亡霊たちの咆哮』が初めて作中に登場したのは、season4第8話「監禁」だ。このエピソードでは、右京の相棒・亀山薫が進藤ミサエという女性に監禁され、金庫の暗号解読を強要される。
一方、右京は推理小説研究会に所属する女子中学生2人からインタビューを受けていた。その中で、学生時代に小説を書いたことを明かし、穏やかに談笑していた。
薫はミサエと新田信彦という男のもとで、できるはずもない暗号解読を強いられる羽目になる。なんでもその金庫には、秘密結社「刃桜の会」が隠した財宝が入っているという。その話を新田から聞いたミサエは、財宝を手に入れようと必死だった。
そこで白羽の矢が立ったのが警視庁特命係の「和製シャーロック・ホームズ」。しかし、あろうことかミサエは、右京ではなく薫を連れてきてしまったのだった。
だが、暗号は解けるはずがない。そもそも財宝の話は、ミサエの気を引くために新田がでっち上げた嘘だったのである。右京は、「刃桜の会」が存在せず、かつて大学生たちの同人誌に掲載された小説を元ネタにしていると看破する。
そんなマイナー作品まで把握しているとはさすがの博識ぶり……というわけではない。右京がこの元ネタを見抜けたのは当然の話だ。なぜなら、その小説こそ、右京自身が中学生時代に書いた『亡霊たちの咆哮』だったからである。
新田が「中学生がそんな話を思い付くはずがない」「その中学生を連れて来いよ!」と激高する中、右京が「その中学生、僕なんですよ」と明かすシーンは、思わず鳥肌が立つほどである。
実は新田はこの小説の大ファンであり、右京が作者本人と知るや「ファンです」といって素直に自首したほどである。右京によれば、大学生が面白がって同人誌に掲載したところ、意図せずして有名になってしまったという。
中学生の頃に書いた作品が大学生に評価され、その後同人誌に載れば伝説の作品と化す。おまけに、数十年の時を経て事件の発端になるとは、一体どれほど面白い作品なのか気になるところだ。いずれにせよ、右京の多才ぶりは昔から発揮されていたようだ。
■season21「大金塊」で久しぶりに登場
それから時は流れ、season21の元日スペシャル 第11話「大金塊」で、久しぶりに『亡霊たちの咆哮』の名前が出てくる。
このエピソードでは、「熟年探偵団」を名乗る3人の老人たちが登場。そのふざけた名前とは裏腹に優秀な探偵団だが、実は彼らの背後にはブレーンがいた。その人物は大門寺寧々という大学生で、敬意をこめて「先生」と呼ばれている。彼女の卓越した推理力は、右京さえも感心するほどだった。
そんな寧々と右京が対面した時、思いもよらないキーワードが出てくる。それが『亡霊たちの咆哮』である。
寧々が所属する大学のミステリー研究会では、『亡霊たちの咆哮』は「早熟の天才中学生・杉下右京が書いた唯一の傑作ミステリー」として伝説になっていた。作者本人である右京との対面に、寧々は喜びを隠せない様子だった。
この出会いをきっかけに、右京も寧々のことを「先生」と呼び、ともに事件を捜査することになる。
しかし周囲の絶賛とは裏腹に、当の右京にとって『亡霊たちの咆哮』は消し去りたい黒歴史なのであった。エピソードの最後では、大学から掲載同人誌を盗み出して焼却すると薫に話しており、それほどまでに自身の汚点と考えているようである。
どこまで本気かはともかく、正義を重んじる右京らしからぬその言動からは、この小説をいかに恥じているかがうかがえる。


