■窮地に立たされた男の決断とは?『吉作落とし』

 最後は、一瞬の気の緩みが悲劇を招いた『吉作落とし』を紹介しよう。

 早くに両親を亡くした吉作は、断崖絶壁に生える岩茸を綱を伝って降りて採取し、真面目に暮らしていた。

 ある日、吉作はこれまで足を踏み入れたことのない岸壁で作業をすることにした。彼の見込み通り、そこでは岩茸がたくさん採れた。カゴいっぱいの収穫を終えた吉作は足元の岩棚が目に入り、そこで一服をすることにした。

 しかし、休憩を終えて再び綱を掴もうと上を見上げると、命綱であるはずの綱は遥か上空にあった。吉作の体重で伸び切っていた綱が、重しがなくなったことで縮んでしまったのである。

 帰る術を失った吉作は、岩棚から峠に向かって大声で助けを求めることしかできなかった。しかしその声は届かず、吉作は何日もの間、岸壁を伝うわずかな水分だけで生き延びることを余儀なくされた。

 しかし、吉作の体力はそう長くは続かず、次第に意識が朦朧としていく。そんな中、ふと小さな石がゆっくりと岩棚から落ちる様子を見て、自分も木の葉のようにふわりと着地できるのではないか、という幻想を抱き始める。そして朦朧とする意識の中、ついに吉作は岩棚から身を投げてしまうのだった。

 ただ真面目に働いていただけの男を襲った悲劇。さらに、彼が声の限り叫んだ助けを呼ぶ声は、峠に届く頃には化け物のように不気味に反響し、かえって人が寄り付かなくなってしまったという。なんとも救いのない、無情すぎる物語だ。

 綱に手が届かないと悟った吉作が絞り出すように言った「迂闊だった!」というひと言。その痛恨のセリフに胸が締め付けられたのは、筆者だけではないはずだ。

 

 今回紹介したエピソードは、いずれも救いのない後味の悪い結末を迎えるものばかりだった。子どもの頃に見て、いまだに忘れられないという人が多いのも頷ける。

 昔話では、心優しい者が必ずしも報われるわけではない。理不尽な現実を描いた物語も少なくないのだ。そして、こうした悲劇的なエピソードを通して、人々は教訓を学んできたのかもしれない。

 ぜひこの機会に、『まんが日本昔ばなし』公式YouTubeチャンネルで、名エピソードの数々を振り返ってみてはいかがだろうか。そこには子どもの頃には気づけなかった、現代社会を生きるヒントが隠されているかもしれない。

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