『海に沈んだ鬼』に『ちごちごの花』、『吉作落とし』も…『まんが日本昔ばなし』誰も救われない「後味の悪いエピソード」の画像
アニメ『まんが日本昔ばなし』Blu-ray第1巻(東宝) (c)2023 愛企画センター

 日本各地に伝わる「昔話」を、子どもにも親しみやすいように映像化した『まんが日本昔ばなし』。1975年に放送が開始された本作は、市原悦子さんと常田富士男さんによる温かみのあるナレーションも相まって、今なお愛され続ける名作である。

 2025年10月、初となる公式YouTubeチャンネルが開設され、懐かしいエピソードたちが公開されると大きな話題となった。改めて見てみると、誰もが知る温かい昔話や史実に基づく昔話、はたまた救いのない結末が待ち受ける衝撃の昔話など、豊富なバリエーションで観る者を飽きさせない。

 そこで今回は、『まんが日本昔ばなし』の数あるエピソードの中から、「後味が悪い」と評されながらも、強烈な印象をファンに残した名エピソードたちを振り返っていこう。

 

※本記事には作品の核心部分の内容を含みます

 

■子鬼の悲痛な叫びに胸が張り裂ける『海に沈んだ鬼』

 親子鬼の悲しい結末を描いたエピソードが『海に沈んだ鬼』だ。

 昔、山のように巨大な体を持つ大鬼と、その子どもである子鬼が、仲良く山奥で暮らしていた。

 ある時、大鬼は神に供え物をして祈る老人と子どもに出会う。話を聞くと、荒れる海によって多くの人が命を落としているという。彼らの姿が忘れられなかった大鬼は、ほどなくしてやって来た嵐の日、2つの大きな岩を金棒に突き刺し、海へと向かった。

 老人の言う通り、海は激しく荒れており、人間たちはなんとか嵐を追い払おうと懸命に抵抗していた。そしてその中には、あの日出会った老人と子どもの姿もあった。

 彼らを見た大鬼は、子鬼を大岩に乗せたまま荒れる海にぐんぐんと入っていく。山のように巨大な大鬼の体も瞬く間に沈んでいき、やがて顔まで水に浸かると、大鬼は大きく手を伸ばして子鬼ごと大岩を海上に突き出したまま動かなくなった。

 海に沈んだ大鬼を見て、子鬼は「おっとぉー!」と悲痛に叫び続ける。しかし、やがて泣き疲れた子鬼の体は、1つの岩へと変わってしまった。

 こうして老人たちの住む村は、大鬼が命を引き換えに差し上げた2つの岩のおかげで荒波から守られるようになった。そして、その岩は今でも残っているという物語だ。

 昔話において、鬼は悪者として描かれることが多いが、この大鬼は人間を助けるため、自らを犠牲にして村を守った。心優しい鬼が報われず、その子どもまでもが岩になってしまう救いのない結末は、多くの視聴者の記憶に刻まれている。

 当初、大鬼は子鬼を浜に残して海へ向かおうとしたが、離れるのを嫌がる子鬼に「ならば泣くな!」と勇ましく言い放つ。覚悟を決めた大鬼の勇ましい姿が印象深くも、物語の悲劇性を一層際立たせているように思う。

■すれ違った親子の悲しい結末『ちごちごの花』

 親子のすれ違いがなんともやるせない結末を迎えるのが、『ちごちごの花』だ。

 子宝に恵まれない長者が、ある日「先祖に悪者がおり人を困らせた。村の人々が喜ぶような良いことをすれば子どもが授かるであろう」と夢のお告げを受ける。そこで長者は、川のない村に水を引き、田んぼを作った。

 すると、お告げ通り、川上から桶に入った赤ん坊が流れてきた。長者はその男の子を宝物のように大切に育てた。やがて美しい少年に育ったその子は、村人から「長者屋敷のおちご様」と呼ばれるようになる。

 雨が降らず大凶作が続いたある年、1人の貧しい身なりの女性が村を訪れた。彼女は、10年ほど前に食べるものに困り、生まれたばかりの我が子を川に流した過去を村の老婆に打ち明けた。その老婆は女性にちご様の面影を見て、まさかと思いながらも長者屋敷のことを彼女に教えた。

 話を聞いた女性は「乞食の親が尋ねたら子どもがかわいそうだ」と立ち去ろうとするが、彼女を哀れに思った老婆は長者屋敷に村に唯一の井戸があることを教え、水をもらうふりをして一目会って行ってはどうかと提案する。

 こうして女性は長者屋敷を訪ね、井戸を借りた。しかし、彼女の汚れた身なりを見たちご様は、彼女が実の母親だと気づくことなく、無情にも棒で叩いて屋敷から追い出してしまうのだ。

 するとその晩から大雨が降り続き、川が氾濫し、長者屋敷は長者とちご様もろとも流されてしまうのだった。

 数年後、ポツンと残された長者屋敷の井戸の穴の傍らには、小さな可愛らしい花が咲くようになった。人々はその花を見てちご様の面影を重ね、「ちごちごの花」と呼ぶようになったという。

 実の母だと気づかず追い出してしまうちご様と、母親と名乗ることもできず棒で叩かれながらも、大きく育った我が子の成長を喜ぶ母。この悲しい親子のすれ違いが、なんとも言えない後味の悪さを残す。

 もし、ちご様が貧しい人にも手を差しのべる心優しい少年だったなら、違う結末があっただろうか。そうしたやるせなさが、この物語を視聴者の心に深く刻みつける一因となっているのだろう。

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