『耳なし芳一』に『十六人谷』『牛鬼淵』も…『まんが日本昔ばなし』忘れられない「恐怖のエピソード」の画像
アニメ『まんが日本昔ばなし』Blu-ray第1巻(東宝) (C)2023 愛企画センター

 市原悦子さんと常田富士男さんが語り手をつとめ、日本各地に伝わる「昔ばなし」を映像化した名作アニメ『まんが日本昔ばなし』。

 1975年に放送が開始され、生誕50周年を迎えた本作。2025年10月には公式YouTubeチャンネルが開設され、チャンネル登録者数は19万人を突破するなど、世代を超えて愛され続けている。(2026年1月5日現在)

 市原さんと常田さんが1人で何役も演じ分けながら、さまざまなジャンルの昔ばなしを語る本作では、心温まる話だけでなく、時にはゾッとするような怖いエピソードも描かれていた。子どもの頃に見て、今なお心に深く残っているトラウマ的なエピソードを持つ人も少なくないだろう。

 そこで今回は、『まんが日本昔ばなし』の中から、特に怖かったエピソードたちを厳選して紹介しよう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■不気味な琵琶の音色が響く…『耳なし芳一』

 まずは、数ある昔話の中でも有名な怪談『耳なし芳一』を紹介しよう。

 昔、目が見えない芳一という貧しい琵琶弾きがいた。阿弥陀寺の和尚にその腕を見込まれ、寺に引き取られていた芳一。彼が特に得意としていたのが、源平合戦の物語「壇ノ浦の合戦」で、その演奏は聴く者の心を強く惹きつけたという。

 ある夜、そんな芳一の噂を聞きつけたという武者の使者が現れる。使者は芳一に、とある身分の高い殿のもとで琵琶を弾くよう命じ、見知らぬ屋敷に連れて行った。そこで芳一が「壇ノ浦の合戦」を奏でると、その見事な演奏に聴衆からはむせび泣きが聞こえてくるのであった。

 芳一の演奏を大層気に入った殿は、6日間連続で琵琶を弾きに屋敷へ来るよう依頼する。このことは“誰にも言ってはいけない”と口止めをされた芳一は、約束通り誰にも言わずに夜な夜な屋敷へ通うことになった。

 しかし、芳一の様子を不審に思った和尚が寺の人間に芳一を尾行させたところ、彼は豪雨の中、安徳天皇の墓の前で琵琶を弾いていた。芳一が平家の亡霊に取り憑かれていると考えた和尚は、芳一を守るため、彼の体に経文を書いて備えることにした。

 その夜、いつものように芳一を迎えに来た使者には、彼の姿が見えなかった。しかし、和尚が経文を書き忘れた耳だけは見ることができたので、使者は芳一がいた証として耳だけを引きちぎり、持ち去ってしまう。

 翌朝、和尚が目撃したのは、両耳を引きちぎられた芳一のかわいそうな姿だった。責任を感じた和尚は彼を手厚く看病し、以降使者の亡霊が現れることはなく、芳一は「耳なし芳一」として、その名が広く知られるようになったという。

 本エピソードのアニメーション自体は可愛らしい絵柄だが、特に恐ろしいのが、琵琶の音色で奏でられるBGMだった。ベンベンと重く響き渡る琵琶の音色が不気味で、得体の知れない亡者の描写も相まって恐怖が増す。

 目の見えない芳一が、平家の亡霊たちに囲まれながら琵琶を弾くシーンでは、亡霊と墓が交互に移り変わり幻影と現実を行き来する演出も恐ろしかった。

 目の見えない芳一には幻影の姿が見えていたのだろうか。何も分からないまま、突然耳を引きちぎられた芳一の悲劇を思うと、いたたまれない気持ちになってしまう。

■生々しい描写が恐怖を煽る!『十六人谷』

 木こりの弥助という男の身に起きた恐ろしい出来事を描いたのが『十六人谷』だ。

 ある日、弥助のもとへ美しい女が訪れ、“柳の木だけは切らないでほしい”と懇願する。しかし翌日、15人の木こりとともに山に入った弥助。そこにも女性は現れ、弥助に念を押すも、仲間たちは弥助の制止に耳を貸さず、立派な柳の木を切り倒してしまうのであった。

 その夜、木こりたちが小屋で休んでいると、恨めしい顔をした女性が現れ、次々と木こりたちの口から舌を引き抜いて殺していく。女性は弥助にも向かってきたが、彼は命からがらその場を逃げ出し、なんとか家に帰ることができた。その後は平穏な日々が流れ、いつしか50年の月日が流れた。

 そんな昔話を話す年老いた弥助の傍には、美しい女性の姿が……。そして翌朝、家族が発見したのは、舌を抜かれて死んでいる弥助の亡骸だった。

 つまり、弥助が昔話を聞かせていた女性こそ、かつて木こりたちを惨殺した女性だったのである。しかし、死の直前、弥助は女性のことを「恐ろしいほど美しい女子じゃった」「あの時の女子が忘れられん」と、懐かしむように語っており、その心境が物語に一層の不気味さを与えている。

 特に女性が木こりたちを殺す時の描写は強烈だ。口と口を重ねて舌をジュルジュルと引き抜く生々しさは、多くの子どもたちのトラウマとなっただろう。

 恐ろしい体験をしながらも、もう一度その女に会いたいと願っていた弥助。彼の死に顔がどこか恍惚としていたのは、その願いが叶った喜びからだったのかもしれない。

 欲のままに立派な柳を切った木こりたちの強欲さと、恐ろしい体験をしながらも美しい女性に心奪われた弥助の、それぞれの欲望が渦巻く怖いエピソードだ。

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