近年、漫画や小説の実写化が増えている日本の映像業界。そのなかでもアクション作品は、身体表現のクオリティが求められる分、実写化のハードルがひときわ高いジャンルである。
原作ファンからの期待が高まる中、作品の完成度を左右するのがキャラクターをどこまで再現できるかという点だ。そしてその鍵を握るのは、やはり俳優の演技力の高さにほかならない。
そうした難しい条件の中でも、原作さながらの奇抜な衣装に身を包み激しいアクションを体当たりで演じた女優たちはひときわ強い印象を残してきた。単にビジュアルを再現するだけでなく、動きの一つ一つでキャラクターの存在感を示していた点は大きな魅力と言えるだろう。
そこで今回は、ビジュアルもアクションも一切妥協せずにキャラクターの魅力を体現した、人気女優たちを振り返っていく。
(第3回/全5回)
■槇絵役の本格的殺陣を披露した戸田恵梨香さん『無限の住人』
12歳で役者の世界に足を踏みいれて以来、ラブコメやサスペンス、医療、警察ものなど、幅広いジャンルの作品に出演してきた戸田恵梨香さん。そんな彼女の新たな一面を強く印象づけることになったのが、2017年公開の映画『無限の住人』での本格的なアクション作品への挑戦である。
本作は、1993年から『月刊アフタヌーン』で連載された沙村広明さんの同名漫画を原作とする実写映画だ。主人公は、大切な妹を賞金稼ぎに殺され、さらには八百比丘尼によって不老不死の身にされた不遇の剣士・万次(木村拓哉さん)。
長年孤独の中で生きてきた彼は、ある日、亡き妹と瓜二つの浅野凛(杉咲花さん)と出会い、殺された両親の敵討ちを望む彼女の用心棒として血塗られた戦いへと身を沈めていく。
原作でも迫力ある戦闘は見どころの一つだが、実写版ではバイオレンス作品に定評のある三池崇史監督の手によって、より壮絶でダイナミックなアクションとして描き出されている。
その中で戸田さんが演じたのが、凛の仇である天津影久の一味・乙橘槇絵だ。遊女としての艶やかさと剣士としての圧倒的な強さを併せ持ちながら、殺しに迷いを抱くという繊細で難度の高いキャラクターである。
だからこそ実写化にあたっては、単なる強い女性にとどまらず、美しさと残酷さ、そして内面の葛藤を同時に体現することが求められた。そんな槇絵の人物像を確かなものにしているのが、戸田さんの身体表現だ。
太ももの付け根まで深くスリットの入ったセクシーな着物に身を包み、三節槍などの長物を自在に操る姿は、アクション経験が浅いとは思えないほど堂々としている。体の運びに無駄はなく、高所からのアクロバティックな跳躍も軽やかだ。
原作にあった「舞」を意識したと戸田さん自身が語っていたが、クライマックスの総力戦で男たちに囲まれながらも一切ひるむことなく場を制圧していく剣技は、まさに舞い踊るかのような滑らかさを帯びている。
原作者の沙村広明さんも戸田さんの槇絵のクオリティに納得のようで、三池監督とのトークショーでは好きなキャラとして槇絵を挙げ、「戸田さんの脚がいいですね」と絶賛する場面もあった。
初の本格的なアクションでありながらこれほど高い臨場感を生み出せたのは、役と真摯に向き合う姿勢に加え、戸田さん自身の身体的素養も大きく影響しているだろう。というのも、戸田さんは幼少期、少林寺拳法の師範である父の指導のもとで武術を学んでいたという。作中で際立つ体幹の強さや動きの機敏さは、そうした幼い頃の経験に裏打ちされたものなのだ。
一方、本作でのアクションは相当過酷だったようで、後のインタビューでは木村さんとの対決シーンの撮影に一週間を要したことを明かすと「撮影中は毎日が筋肉痛で、起きても動けなかった」と振り返っていた。それほどまでの肉体的挑戦とアクションへの丁寧な向き合い方が、戸田さんの新たな境地を切り開いたと言えるだろう。
キャリアを伸ばす中、映画『無限の住人』で本格的なアクションという新たな領域に挑戦した戸田さん。男性陣にも引けを取らない力強い体の動きと揺れ動く心の繊細な表現は、乙橘槇絵というキャラクターの強さと弱さ、そして儚さを色濃く浮かび上がらせていた。


