■堂本監督の油断:逸材・河田弟の早すぎた投入
絶対王者・山王の堂本五郎監督は、最強軍団を率いる指揮官として描かれる存在である。ただ、その采配をあらためて振り返ると、正直首をかしげたくなる場面も少なくない。その代表例が、湘北戦におけるルーキー・河田美紀男の起用だ。
前半残り15分、桜木をマークしていた野辺将広が負傷し、急遽投入されたのが1年生の河田美紀男だった。身長210cm、体重130kgという規格外の体格を活かし、ゴール下のポジション争いでは一時的に桜木を圧倒した。
確かに美紀男は、高校No.1センター・河田雅史を兄に持つ将来性豊かな逸材だ。堂本監督が彼に全国大会という大舞台を経験させ、来年につなげたいと考えるのも無理はない。
だが、その投入のタイミングには疑問が残る。全国大会初戦という重圧の中、精神的にも技術的にも発展途上の未熟なルーキーを、しかもリードを許している局面で起用する必要があったのだろうか。たとえば後半に入り、点差を十分に広げてから余裕のある状況で経験を積ませるという選択肢もあったはずだ。
結果として、美紀男は桜木に弱点を突かれ、期待されたほどの活躍はできなかった。さらに堂本監督は、後半の勝負どころでも美紀男を再投入するが、ここでも赤木剛憲に歯が立たない。この経験は気の弱い性格の彼にとって、自信喪失につながったかもしれない。
美紀男の投入は、来年以降を見据えた育成という狙いもあった一方、この試合に限ってはリスクの大きい判断だったといわざるを得ない。
それは最強であるがゆえの自信が生んだ、数少ない誤算の象徴だったのかもしれない。
こうして振り返ると、監督の采配ひとつで試合の流れは大きく変わり、時にはその判断が敗因になることもある。今回取り上げた采配は、いずれも勝負の場に立つ以上、避けて通れない選択だったといえるだろう。
その中で、対照的な成功例として浮かび上がるのが、海南の高頭力監督の湘北戦における宮益義範の起用である。役割を明確にして無理をさせず、リスクを抑えながら確実なリターンを得た采配だった。
そして何より、「あの場面で別の采配をしていたら、試合はどうなっていたのか」と、つい考えてしまう余地が残されていることこそが本作の魅力だ。そうした「if」をファン同士が自然と語り合える懐の深さが、『SLAM DUNK』を今も名作として語り継がせている理由なのだろう。


