■鏡を見ながら自分自身を開腹手術!?「ディンゴ」
無医村や紛争地帯など、過酷な環境での手術も多いBJだが、その中でも究極のサバイバル手術といえばこれだろう。「ディンゴ」で描かれた、自分自身を手術するエピソードだ。
オーストラリアの奥地へ向かったBJは、ガソリンを求めて立ち寄った1軒の農家で赤い斑点が広がった遺体を見つける。その後、自身の体にも赤い斑点が出現したことから、BJは自分の体が「エヒノコックス」という寄生虫に感染したことを知る。
放置すれば命にかかわるが、周りに医師はいない。そこでBJは、なんと自分で自身の手術をするという、前代未聞の決断を下すのだ。
荒野にて手術テントを張り、自身のお腹に局所麻酔をして、鏡を見ながら開腹手術を始めるBJ。しかし、血の匂いに誘われて野生の犬(ディンゴ)が現れ、BJは自身の命をかけた手術と、獰猛なディンゴとの闘いという、二重の危機に直面するのであった。
鏡に映る様子を頼りに、自分のお腹にいる寄生虫を摘出していく壮絶な光景は、多くの読者に強烈なインパクトを与えた。どれだけ腕の良い医者でも、こんなことができるのはBJ以外にいないだろう。なお、BJが自分で自分を手術をするエピソードは、この他「骨肉」などでも描かれている。
■足を切断して救出し、すぐさま縫合する「タイムアウト」
最後は「タイムアウト」のエピソードで見せた、大胆不敵な手術を紹介したい。
交通渋滞のさなか、トラックが積荷の鉄骨を落下させる事故が発生。そばにいた子どもが、その下敷きになってしまう。しかも現場は激しい渋滞が壁となり、救助車両の到着は絶望的な状況であった。
偶然その場に居合わせたBJは、危険を顧みず鉄骨の隙間に自らの身を滑り込ませる。そして“子どもを救うには体を4つに切るしかない”と伝え、一度手足を切断し、救出後にまた縫合するというとんでもない手術を提案する。
そしてBJは、鉄骨がいつ崩れてもおかしくない中、子どもの手足を切って救出。その後、見事に縫合手術も成功させるのであった。
事故などで体が挟まれた際、手足を切って救出する事例は現実にもある。だが、手足全てを切断し、再びつなぎ合わせ、さらに元通りに機能させることは極めて困難だろう。BJは、まさに神のような技術を持つ存在として描かれているのである。
『ブラック・ジャック』で描かれる手術は、常識では考えられない奇想天外なものばかりだ。しかし、こうした神業はすべて「何としても患者を救う」というBJの強い執念から生まれているのだろう。
医学の常識やタブーすらも飛び越え、ひたすらに“命”そのものと向き合うBJの姿は、連載終了から長き時を経た今もなお、私たちに感動を与えてくれるのである。


