■短いながらに練り込まれた、巧妙なストーリー
前述のとおり、本作はわずか全17回という短い連載期間ではあったものの、練り込まれた巧妙なストーリーが多くの読者を惹きつけている。
物語冒頭でバオーの力を植えつけられた育朗は、超能力少女・スミレと共に秘密機関「ドレス」の追撃を逃れる旅を続けていく。
当初はバオーの強大すぎる力に翻弄される育朗だが、スミレをとっさに庇ったり、無関係の人間が殺されたことに心を痛めたりと、怪物となってもなお人間としての心がその身に宿っていることが明らかになっていく。
力に振り回されていた育朗も旅の中で数々の戦いや出会いを経験し、ついにはバオーの力を制御することが可能になる。
己の運命と向き合う覚悟を決めた育朗は、すべての元凶である「ドレス」そのものと対峙することを決意。彼らに宣戦布告することで、すべてを終わらせる最終決戦へと挑んでいく。
気弱で情けなかった青年が、最後は怪物の力を使いこなし、悪の組織へと立ち向かっていく……この一連の成長劇こそが見る者を強烈に惹きつけ、夢中にさせるのだ。
特に物語終盤、人質として監禁されたスミレを救うため、単身「ドレス」のアジトへと乗り込んでいく育朗はとにかく格好良く、自我が確固たるものになることで瞳が描かれるようになるなど、巧みな演出も読み手を楽しませてくれる。
また、随所で挟まれる個性的な刺客たちとの激闘や、そのたび進化していくバオーの力など、物語のテンポも非常に良く、絶妙の緩急が読者を飽きさせない。
殺人者集団、サイボーグ、超能力者といった敵に対し、バオーがどう戦い、退けるのか。続きが気になる場面構成も、荒木氏の高い力量だからこそなせる技なのだろう。
短い連載期間ではあったが、荒木飛呂彦氏の伝説の作品として今もなお語り継がれ続けている『バオー来訪者』。ときを経て『ジョジョの奇妙な冒険』のゲームにクロスオーバー出演したりと、予想だにしないかたちで存在感を放ち続けている。
いまだに本作のリメイクやスピンオフ、続編を心待ちにしているファンも多いのではないだろうか。


