漫画家・荒木飛呂彦氏の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』は、能力バトル漫画として今もなお多くの読者を夢中にさせている。
頭脳戦や科学的要素を交えた巧妙なバトル、ホラー映画のような濃厚なタッチなど、唯一無二の作風が特徴だ。
デビュー以降、多くの作品を手掛けてきた荒木氏だが、その中でも1984年から連載された『バオー来訪者』は全17回、単行本にすると全2巻で完結という比較的短い作品である。だが、その完成度の高さから今もなお根強いファンを獲得している隠れた名作だ。
そこで、今回はファンに語り継がれ続ける伝説的短編『バオー来訪者』の魅力を語っていきたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■荒木氏の描いた短編『バオー来訪者』とは
『バオー来訪者』は、『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて1984年より連載された作品だ。
本作は現代を舞台に、秘密機関「ドレス」が生み出した脅威の寄生虫「バオー」を主軸とした物語が繰り広げられる。
主人公の青年・橋沢育朗は不慮の事故に遭い、これをきっかけに「バオー」の宿主として「ドレス」に目を付けられ、肉体に寄生虫を植えつけられてしまう。
「ドレス」によって輸送されていた育朗だが、アクシデントによって目覚め、バオーとしての能力に覚醒。その後、育朗は、予知能力を持つ少女・スミレと共に逃亡を開始するのだが、「ドレス」がバオーの力を宿した彼らを逃すわけもなく、次々と刺客を送りつけてくる。
自身の数奇な運命に翻弄される育朗だが、戦いのなかでバオーの持つ多様な特殊能力を目覚めさせていき、追っ手と激しい戦いを繰り広げていく……という物語だ。
このように本作は、寄生生物が生み出す超常的な力というSF要素を織り交ぜたバトル作品である。
苛烈な戦いのさなかに繰り出される濃厚なゴア表現などグロテスクな描写も多く、荒木氏が得意とするホラーやサスペンスの要素もふんだんに盛り込まれている。そのうえで育朗がさまざまな人々と触れ合い、己の呪われた宿命と向き合っていく成長劇がしっかりと描かれているのも本作の魅力だろう。
濃厚なタッチで描かれるスタイリッシュな戦闘描写、戦いのなかで成長していくバオーの能力、卑劣かつ個性的な刺客の面々など、バトル漫画として実に見どころの多い作品である。
また、本作はその高い人気から1989年にOVA化され、2013年に発売された対戦ゲーム『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』では、バオーがDLC追加キャラクターとして参戦するなど、意外な形でメディア展開を続けている。
■後の傑作を予感させる、荒木氏ならではのエッセンス
本作は、荒木氏の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』の2年前に連載された作品だが、この時点ですでに荒木氏ならではのエッセンスが存分に組み込まれている。
その代表例が、育朗が作中で覚醒していく「バオー」の特殊能力だ。
「バオー武装現象(アームド・フェノメノン)」と呼ばれるこの能力は、さまざまな現象を発生させるが、そのどれもが科学的な論理に裏づけられているのが特徴だ。
例えば、前腕側部の皮膚組織を突出・硬質・鋭利化させることで刃を作り上げたり、体細胞から発生する微弱な生体電気を増幅させることでデンキウナギのように放電したりと、それぞれの能力がなぜ発生するのかという理論がていねいに説明されている。
ときには能力と周囲にあるものを組み合わせて勝利をもぎ取るなど、戦いにおける独自の駆け引きも本作ですでに披露されていた。
また、容赦のないダメージ描写や「ギャァーン」といった独特の擬音を用いたホラーテイストな演出、バオーが口走る「バルバルバル」という鳴き声など、一度見たら忘れることのできないインパクト大な演出も満載。バトル以外にも、実験体となった犬が虎を惨殺したり、民間人の家族が容赦なく殺害されたりと、ショッキングな描写も多数登場する。
全体的にダークな雰囲気が漂う中、ここぞという場面でバオーが「こいつの『におい』を止めてやるッ!」といった決め台詞を放ったりと、少年漫画ならではの熱さもある。
後に長期連載作となる『ジョジョの奇妙な冒険』にも通ずる数々の魅力を、本作からも存分に感じ取ることができるのだ。


