『へび女房』に『もの言わぬお菊』『飯降山』も…『まんが日本昔ばなし』子ども心にショックを受けた「救いのないエピソード」の画像
アニメ『まんが日本昔ばなし』Blu-ray第1巻(東宝) (c)2023 愛企画センター

 1975年に放送が開始され、今年生誕50周年を迎えたアニメ『まんが日本昔ばなし』。優しいオープニング曲でおなじみの本作は、日本各地に伝わる昔ばなしを市原悦子さんと常田富士男さんが温かみのある語りで届け、昭和・平成初期の子どもたちに大きな楽しみを与えてくれた。

 しかし、数あるエピソードの中には、子ども心に「えっ、これで終わり?」と呆然とさせられるものもあった。明確な教訓やハッピーエンドはなく、誰も幸せにならない物語……。今回は大人になった今でもトラウマとして心に刻まれている『まんが日本昔ばなし』の「救いのないエピソード」を紹介したい。

※本記事には各作品の内容を含みます

■人間とヘビの結婚の悲しい顛末『へび女房』

 まずは、『鶴の恩返し』の物語にも通じる悲劇、『へび女房』を紹介したい。

 昔、ある男が、長い髪を木に絡ませて困っている美しい女と出会った。それをきっかけに、やがて2人は夫婦となり子どもを授かる。

 出産が近づくと、女は別の小屋に入り“お産が終わるまで部屋を覗かないでほしい”と男に頼んだ。しかし、赤子の泣き声を聞いた男は嬉しくてつい部屋を覗いてしまう。だが、そこにいたのは、なんととぐろを巻いた大蛇の姿であった。

 正体を知られた女は、“もう一緒には暮らせない”と言う。そして、自分の片方の目玉を取り出し、“子どもにこれをしゃぶらせて育ててくれ”と言い残してその場を立ち去った。

 しかし、その目玉は子どもがしゃぶり尽くしてしまい、ついにはなくなってしまう。泣き止まない子どもに困った男は女を探し、山の奥深くにある沼にたどり着いた。そこで名を呼ぶと大蛇の姿となった女が近寄ってきた。

 事の顛末を聞いた女は、残ったもう片方の目玉を男に渡し、“もう目が見えないので、これからは朝夕に鐘を鳴らして時を教えてほしい”と頼み、それきり姿を消してしまうのであった。

 愛した女の正体が蛇であり、出産後は我が子のために両目をくり抜いて与える。そう聞くと一見ホラーのようでもあるが、姿を隠し両目すら犠牲にするその行動は、まさに母親の深い愛情そのものだ。

 せめて女が人間に戻る、あるいは成長した息子と再会する展開があれば救われたかもしれない。しかし許しも再会も描かれぬまま、物語は無情に幕を閉じるのである。

■言葉が招いた一生の後悔『もの言わぬお菊』

 『もの言わぬお菊』のストーリーは『まんが日本昔ばなし』の中でも、特に絶望的な展開で知られる物語だ。

 貧しい家の子どもであるお菊は、病を患い瀕死の状態となり、親に「赤いまんま(小豆ご飯)食いてえ」と願う。父親はお菊のため、地主の蔵から初めて盗みを働き、その盗んだ小豆を与えてお菊を回復させた。

 しかし、元気になったお菊は無邪気に外で「赤いまんま食べた」と歌ってしまう。それを聞いた役人は父親の盗みに気づき、その後、父親は人柱として生き埋めにされてしまうのであった。

 自分が何気なく口にした言葉で父親のしたことが明るみに出てしまい、処刑されてしまうという、あまりにも残酷な顛末。この出来事がきっかけで、お菊はショックのためか一切話さなくなる。

 のちに猟師に撃たれたキジを見て「お前も鳴かなかったら撃たれはしなかったものを」と一度だけつぶやき、再び固く口を閉ざすのであった。

 子どもであれば嬉しいことを口にするのは当然であり、お菊のことは責められない。しかし、昔は、つい口を滑らせたことが原因で罪人扱いされることもあったのだろう。

 『もの言わぬお菊』は「口は災いの元」という教訓をこれでもかと教えてくれる残酷なエピソードである。

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