■優柔不断な輝に頭を抱える展開も…
1980年代後半から90年代にかけて流行した「トレンディドラマ」では、主人公の優柔不断な言動にイライラさせられることもありました。ですが、昭和のロボットアニメでここまで優柔不断な主人公は、輝が初めてではないでしょうか。
ゼントラーディの大艦隊が地球への攻撃を開始する第27話「愛は流れる」で、決戦前に輝はミンメイに自分の気持ちを伝え、皆のために歌ってくれるよう依頼。ミンメイは「あなたのために歌う」と伝えてキスをします。
ミンメイが歌う姿はまさに伝説のアイドルにふさわしく、輝は危険を承知で未沙の救出に向かうという圧巻のエピソードです。白い画面に線画だけで表現された、未沙に駆け寄って抱擁するシーンはとても感動的でした。
ミンメイとのキスは2人の別れを意味し、「輝は未沙を選んだ」と誰もがそう思ったはずです。
ところがその2年後、荒廃した地球に降り立った彼らは、復興で大変な思いをします。カイフンはすべて軍のせいだと荒れ、そんなカイフンと婚約していたミンメイは、再び輝のほうに心が揺らぎはじめます。
こうしたミンメイの言動により、輝と未沙の関係もギクシャクし、未沙は思い悩むようになります。一方の輝は、ミンメイの好意をはね退けられずに何度も未沙を傷つけ、一途な男性像とかけ離れた優柔不断な態度にモヤモヤさせられるのです。
結局、ミンメイはカイフンと別れますが、最終回(第36話)で輝が未沙を選んだことで、ようやくこの三角関係に終止符が打たれます。筆者を含め、周囲の女性ファンは「遅すぎる!」と声をあげながらも、ついに未沙が報われたことに胸をなでおろしました。
■初見から数十年経ってからの「印象の変化」
1984年に劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』が公開され、テレビ版よりもさらに美しい映像に感動。また、テレビ版での出来事を引きずり未沙びいきだった筆者も、ミンメイの描かれ方が良い方向に変わっていることに驚かされました。
劇場版は「IF世界」といわれているように、テレビ版の総集編ではなく、新たに作られた別の可能性の物語とされ、テレビ版のミンメイとは明らかに変わっていました。
ですが当時10代だった筆者は、劇場版でどんなにいじらしく、愛らしく描かれたミンメイも、テレビ版でのフィルターがかかって素直に受け入れられませんでした。
しかしあれから数十年が経ち、アラサーになって再び『マクロス』シリーズを見返したとき、ミンメイに対する印象も大きく変わります。15歳のミンメイと同じ年代だった頃の自分を重ね合わせ、まだ未熟で自身の言動に責任が持てないのも当然だと思えてしまったのです。
逆に『愛・おぼえていますか』をあらためて見ると、ミンメイと輝を見つめる未沙の視線は哀しみではなく、自信のなさからくる威嚇のようにも見え、テレビ版でも年下の輝に対して余裕がなさそうに感じました。
この記事を書く前に、再度『マクロス』を見返したのですが、当時モヤモヤさせられた三角関係も、全員10代で人生経験が少ないなかで不器用に悩み、それぞれ未熟な面がありながらもギリギリのところで頑張っていたのだと気づかされます。
当時あれほど嫌いだったミンメイや、優柔不断さに辟易させられた輝にも人間的な魅力を感じ、一方で1人だけ大人に見えた未沙の余裕のなさに気づかされるとは思いもよりませんでした。
これだけの月日を経て、放送当時とは別の見方をさせてくれる『マクロス』という作品は、それだけ奥深く、リアリティにあふれていたのだと再確認できたことをうれしく思います。


