■女性ファンの目に映った「ミンメイと未沙」の違い
輝は、ミンメイらの勧めもあって軍に入隊したことで、“2人目のヒロイン”である主任オペレーター・早瀬未沙と深く関わるようになります。
当初、輝は、年齢も階級も上の未沙のことを「おばさん」扱いするなど、ミンメイの接し方とはずいぶん違い、恋愛の気配はありませんでした。しかし、物語が進むにつれて状況は変わっていきます。
第7話「バイバイ・マルス」の回で助けに来た輝と2人っきりになると、ふだんはお堅い未沙が初恋相手であるライバー少尉との甘く切ない思い出を語り、魅力的な側面が描かれ始めます。
一方の輝は、大事な当直を抜け出してミスコンに参加したミンメイの応援に行き、未沙に虚偽の報告をしたうえ、敵を接近させるという大失態を犯しました。
かと思えば、ゼントラーディ軍の捕虜になった未沙が、究極の選択とはいえ、輝を選んでキスをするなど、彼らの関係は二転三転します。
輝に対して少しずつ心を開く未沙、ミンメイが絡むと途端にポンコツになる輝、天真爛漫なミンメイ……視聴者は彼らが繰り広げる三角関係にヤキモキさせられるのです。
■ミンメイの従兄の登場を機に変わった「流れ」
ミンメイはミスコンを足がかりにアイドル活動を始めますが、そんな彼女に距離を感じながらも好意を持ち続ける輝。一方、軍では柿崎やマックスという部下ができ、未沙と関わる機会も増えていきます。
ところがミンメイの従兄であるリン・カイフンの登場により、彼らの三角関係はさらにいびつになります。
未沙は初恋の相手・ライバーに似たカイフンに惹かれますが、彼は極度の反戦主義者。軍属の輝や未沙に対して露骨に嫌悪感をあらわにします。
そんななか、ゼントラーディの攻撃からマクロスを守るため、フォッカーや柿崎が相次いで戦死。その一方で非暴力を訴え、軍を非難するカイフンに視聴者目線ではイライラが募り、輝と深く関わりながらもカイフンを慕うミンメイに対して、疑問を抱く女性ファンが筆者の周囲でも急増したのです。
ミンメイを想う輝とカイフンを想う未沙。その奇妙な関係はミンメイとカイフンが親密になったことで変化が生じ、未沙は想いを断ち切って輝を意識しますが、当の輝は優柔不断のままでした。
そんなモヤモヤした関係が続くなか、スピーディーに愛を育んで結婚に至ったマックスとミリアのカップルは、ファンから絶大な支持を集めます。その美しい結婚式の姿は当時、雑誌『アニメージュ』(徳間書店)の表紙を飾り、のちのシリーズ作品にも自身や子孫が登場するほどの人気を得ました。
この頃になるとヒロインの1人であるはずのミンメイは、人気に大きな陰りが見られるように……。
当時のアイドル文化のなかで「ぶりっ子」という言葉で形容されることもあった松田聖子さんのように、ミンメイのことを「ぶりっ子」と呼ぶファンも一部いました。そこにはミンメイの態度や言動に対する不満が少なからずあったように見えました。
ミンメイのカイフンに対する態度だけでなく、輝を軍に入ることを勧めた張本人でありながらその事実を「忘れていた」と発言するなど、他人の気持ちを考えない彼女の未熟な面が、少なからず反感を買ったのです。
当時のアニメ雑誌の読者投稿欄には、ミンメイの言動を疑問視する意見も見受けられ、今では信じられませんが、雑誌『アニメージュ』で行われた「私のキライなキャラBest10」という投票企画で、ミンメイは第1位に選出されます。
一方の未沙は「好きな女性キャラ部門」で上位に入り、1984年の人気投票では第1位に輝くなど、2人のヒロインに大きな格差が生じました。
この件に関して、石黒昇さんと共同で監督を務めた河森正治さんは、『マクロス』30周年記念のインタビューで次のように語っています。
「ミンメイは好かれもするけど、嫌われてもいいヒロインとして描こうと、ずいぶん話し合いましたね。そのくらいの娘じゃないと、芸能界でやっていけないだろうと」
1982年の放送当時、河森監督の狙いに自分をはじめ多くのファンは、まんまとハマってしまったのだと30年も経ってから気づかされました。


