漫画やアニメの世界には、ときに美しさと恐ろしさが同居した女性キャラクターが登場し、その独特の存在感で読者を惹きつけてきた。実写化となると、キャラたちの大胆なビジュアルや人間離れした雰囲気などを再現するのは簡単ではなく、原作のイメージを損なわずに表現することが大きな課題となる。
そんなハードルの高い役柄に挑み、原作キャラの異形の美を損なうどころか、新たな魅力まで引き出してみせた女優たちもいる。それは作品の世界観への理解や丁寧な役作りによって成せるもので、中には、原作ファンをも驚かせる表現を生み出したケースも少なくない
そこでここでは、“化け物キャラ”を演じた女優たちを数回にわたって振り返ってみよう。
(第5回/全5回)
■こんなゾンビなら襲われてもいい?『アイアムアヒーロー』の有村架純さん
はるか昔から、人々は“日常が一瞬で壊れる物語”にどこか惹かれてきた。なかでもゾンビ作品は、世界中で愛され続ける定番ジャンルだ。日本でも例外ではなく、パンデミック系の作品は根強い人気を誇る。その代表格の一つが、2009年から『ビッグコミックスピリッツ』で連載された花沢健吾さんの『アイアムアヒーロー』である。
本作は、謎の奇病が突如蔓延し人々が“ZQN”と呼ばれるゾンビのような存在へと変貌していくパニックサバイバル。平穏な日々が音を立てて崩れる恐怖と、極限状態の中であらわになる人間の本性が描かれている。
2016年には、主人公の鈴木英雄に大泉洋さんを迎えて待望の実写映画化。リアルなゾンビの造形とグロさ満点なアクションという圧倒的なクオリティの映像表現で、日本が誇るゾンビ映画となった。
そんな実写版『アイアムアヒーロー』の中で、強い存在感を放っていたのが有村架純さんである。演じていたのは、新生児に噛まれて半ZQNになってしまった女子高生・早狩比呂美だ。
噛まれてすぐは笑顔も見せていたが、感染がじわじわと体を蝕みついには発症。次第に感情が失われると、表情もなくなって言葉もほぼ話さなくなっていく。
とはいえ、見た目は片目がZQNになっただけでほぼ人間時代のまま。人としての意識も残っているため、作中では英雄を守るために無表情のまま猫パンチのようなポーズでZQNを倒すという、妙に可愛くて強い一面まで見せてくれる。
極めつけは、人間の食べ物を受け付けなくなった代わりに猫缶が主食になるという設定だ。ゾンビといえば血がベタベタについたグロい顔に人間離れした体の動きが特徴だが、本作の比呂美は怖さはなく、先ほどの猫パンチと合わせて考えるともはや猫のようである。この可愛すぎる猫ZQN・比呂美の誕生に「こんなゾンビならそばにいてほしい」という感想が寄せられたのは言うまでない。
言葉で感情を表せないこの難役に、自身の武器でもある笑顔を封印して挑んだ有村さん。後のインタビューでは、半ZQNという正解のない部分の表現が難しかったと語っていた。
わずかな人間時代の記憶を元に比呂美の心に残っているであろう葛藤を想像して演技したとのことだが、英雄の後ろにいるだけの時でさえ、その表情と佇まいだけで圧倒的な存在感を放つのだから凄いものである。感情表現がほぼない役にも厚みを与えられるのは、有村さんの表現力の広さゆえだろう。
ちなみに、英雄と藪(長澤まさみさん)が感染が進んで動けなくなった比呂美を運ぶシーンがあるが、このときの有村さんは顔の型取りから手の甲までサイズを測って作った実寸大人形なのだそう。あまりのリアルさに驚いてしまうクオリティである。
当時から有村さんは人気絶頂で、CMにもテレビにもドラマにも引っ張りだこ。そんな中で挑んだ正解のない半ゾンビという役柄は、有村さんの役者としての幅を広げることとなった。機会があるならば、今度はもっと際どいゾンビ姿も見てみたいものである。


