漫画やアニメの世界には、ときに美しさと恐ろしさが同居した女性キャラクターが登場し、その独特の存在感で読者を惹きつけてきた。実写化となると、キャラたちの大胆なビジュアルや人間離れした雰囲気などを再現するのは簡単ではなく、原作のイメージを損なわずに表現することが大きな課題となる。
そんなハードルの高い役柄に挑み、原作キャラの異形の美を損なうどころか、新たな魅力まで引き出してみせた女優たちもいる。それは作品の世界観への理解や丁寧な役作りによって成せるもので、中には、原作ファンをも驚かせる表現を生み出したケースも少なくない
そこで、“化け物キャラ”を演じた女優たちを数回にわたって振り返ってみよう。
(第3回/全5回)
■男を破滅に導く美しき怪異『富江』の菅野美穂さん
ホラー漫画界の巨匠・伊藤潤二さんが描く、美しくも恐ろしい美女の怪異『富江』シリーズ。1986年に投稿した同作が『ハロウィン』で楳図かずお賞の佳作に入賞し、翌87年に同作でデビューを飾ったという、まさに伊藤さんの原点にして代表作だ。
本作はアニメ化よりも早く実写化され、1999年公開の初代『富江』を皮切りに映画8作品とテレビドラマ1作品が制作されている。アニメ版は、2018年と2023年の『コレクション』『マニアック』で映像化された。
映画第1作目の『富江』にて初代富江を演じたのが、菅野美穂さんである。当時22歳の菅野さんは、1996年のドラマ『イグアナの娘』で注目度が急上昇し、1997年には『君の手がささやいている』で第3回エランドール賞新人賞大賞を受賞。実力派女優としての評価が高まりつつあった時期である。
そんな彼女が、人ならざる者を演じた『富江』は、公開当時から大きな注目を集めることとなった。
物語は、記憶障害に悩む泉沢月子(中村麻美さん)の催眠療法から“川上富江”という名が浮かび上がり、不可解な事件が連鎖していくというもの。どちらかというと、ホラーよりもサスペンス色の強い構成になっている。
原作のように富江の恐怖が前面に出るわけではなく、本作は物語前半で富江はほぼ姿を現さない。まだかまだかと焦らされる中で名前が独り歩きし、富江に壊された男たちの姿が積み重なることで、見えない恐怖がじわじわと視聴者を追い詰めていく。だからこそ後半、満を持して登場した菅野さんの存在感は圧倒的だった。
そもそも富江は、何度殺されても蘇り、男たちを壊し続ける魔性の怪異だ。その美しさ、残酷さ、底知れないミステリアスさを、菅野さんは表情、仕草、声の出し方にいたるまで緻密に作り込み迫真の演技で観る者を魅了した。
特に目での演技は秀逸で、美しさと恐ろしさが混ざりあう異質さを見事に表現している。ふとした時には無垢な少女のような表情を見せるのに、次の瞬間には人間離れした冷たさがのぞく、その落差は富江の魔性をより立体的にしていた。
さらに、本作での菅野さんは体当たりの演技も多い。自分にすがりつく男にマニキュア落としを容赦なくかけて「あなたはもういらない」というシーンなどは、ケラケラ笑う無邪気さと行動の異常さのギャップによって怪物感が際立ち、目が離せなくなってしまう。
とりわけ象徴的なのが、ビニール袋に入った虫を掴み、「今日の晩御飯」と笑いながら月子に食べさせようとするシーン。触角が動いていることからもわかるが、実はこの虫は本物である。
もちろん衛生的に育てられた生体ではあるものの、虫を素手で掴むという行為はやはり抵抗がある人が多いだろう。ここでも菅野さんの女優魂が光り、富江という存在の狂気を決定づけていた。
1990年代、女優道を突き進んでいた菅野さんが挑んだ初のホラー作品『富江』。あどけなさの残る顔つきの奥に潜む富江の魔性をこれでもかと体現した名演により、本作は数あるシリーズ作品の中でも語り継がれる一本となった。


