漫画やアニメの世界には、ときに美しさと恐ろしさが同居した女性キャラクターが登場し、その独特の存在感で読者を惹きつけてきた。実写化となると、キャラたちの大胆なビジュアルや人間離れした雰囲気などを再現するのは簡単ではなく、原作のイメージを損なわずに表現することが大きな課題となる。
そんなハードルの高い役柄に挑み、原作キャラの異形の美を損なうどころか、新たな魅力まで引き出してみせた女優たちもいる。それは作品の世界観への理解や丁寧な役作りによって成せるもので、中には、原作ファンをも驚かせる表現を生み出したケースも少なくない。
そこで、“化け物キャラ”を演じた女優たちを数回にわたって振り返ってみよう。
(第1回/全5回)
■安定の演技力とゾクゾクする美しさで圧倒した『寄生獣』の深津絵里さん
今回振り返るのは、岩明均さんによる漫画『寄生獣』の実写版。同作は、1989年から95年にかけて『モーニングオープン増刊』および『月刊アフタヌーン』で連載された名作である。根強い人気を持ちながらもアメリカが原作権を保持していたことから長らく映像化の話が進まず、2014年になってようやくアニメ版と実写映画版が制作されることとなった。
主人公は、右手に宿ったパラサイト“ミギー”と共存する高校生・泉新一。本作は、彼を中心に人間とパラサイトの対立を描き、人間とは何か、生きることとはなにかという根源的なテーマを投げかけるSFアクションだ。
実写映画で監督を務めたのは、『ALWAYS 三丁目の夕日』を手掛けた山崎貴さん。原作とはやや設定が異なるものの、染谷将太さん演じる泉新一を軸に、多彩な俳優陣が緊張感あふれる戦いを演じている。
中でもひときわ異彩を放っていたのが、田宮良子を演じた深津絵里さんだ。田宮はパラサイトでありながら人間としての身分を保ち、高校教師を務めるほど高度な知能を持つ人物。自分たちパラサイトの存在意義に疑問を持ち、実験の一貫として人間の子どもを妊娠して共存の道を模索していくというキーパーソンである。
そんなミステリアスで知的な魅力を持つ田宮良子を、深津さんは驚くほど原作のイメージそのままに体現した。抑揚なく淡々と話す声、感情の読めない表情、冷たい眼差し――その無機質な佇まいは不気味でありながら美しく、人間ではない生物として強い存在感を放っている。
2015年公開の『完結編』では、人間らしさを帯びていく田宮の姿が強く描かれていく。たとえば“笑う”という概念の無かった彼女が、子に向かっていないいないばあをし、鏡の前でぎこちなく笑みを浮かべた後に声を上げて笑うシーン。深津さんの細かな表情の変化は秀逸で、パラサイトである田宮の中に人間らしい感情が少しずつ混ざりはじめている様子が伝わってくる。
さらに物語終盤、「寄生生物と人間は一つの家族。我々は人間の子どもだ」と自分なりの答えを出す田宮。正体がバレると、警察からの猛攻撃を反撃も逃走もせずに受け止め、新一とミギーに「子どもと一緒に二人だけで生きてみたかった。人間たちの手で普通に育ててやってくれ」と子を託す。芽生えた母性に導かれるように我が子を守り命を落としていくその切ない最期に、深津さんの繊細で痛みを含んだセリフ回しが一層の深みを与えていた。
オファーを受けて原作を読んだ際、「なぜ私なんだろうと思った」と当時を振り返っていた深津さん。山崎監督は作中で田宮の顔が割れるシーンがあるため少し遠慮していたそうだが、深津さんはすんなり受け入れ、むしろ「もっと割れろ」と思っていたというほどノリノリだったのだとか。
見ている側からすると、顔が割れてもなお美しさが際立つ深津さんに目を奪われると同時に、田宮という難役は深津さんでなければ成立しなかったのではないかと改めて実感させられるキャスティングである。
パラサイトの存在意義に揺れながら人間との共存を模索した田宮は、作品が問いかける“生きるとは何か、人間とは何か”を象徴する重要な人物だ。実写版で彼女の複雑な内面を体現できたのは、無機質さから少しずつ人間らしさが芽生えていく過程を丁寧に演じた深津さんの演技力があったからこそである。


