■原作にはないオリジナル演出の作り方

ーー完成した映像を観た感想を教えてください。

モラル 「ここは盛り上がるだろう」と思って書いたところを、映像や演出でしっかり盛り上げてくれていました。何でもない場面にも細かい仕掛けがあり、自分が書いたことを忘れるくらい、新鮮な気持ちで笑いながら見ました。

 特に自分が担当した回で言うと、第6話「アメリカ風中華料理の流儀」が印象的です。あの回は、ハリウッドではおなじみの「箱中華」が登場し、ひろしが箱中華を片手に、映画の登場人物になりきって妄想するシーンがあります。刑事ドラマ風の演出や吹き替えの感じもハリウッドさながらで、制作陣の本気度を見た気がします。

 あと、森さんが担当した回だと、「パンケーキの流儀」は本当に笑いました(笑)。

 あの回はそもそも、原作のパワーが一段とすごかったですね(笑)。セリフ回しや作画も往年の少女漫画のような表現でしたし、そもそもパンケーキ屋に行ったからって、女の子っぽく喋ろうと普通ならないですよ(笑)。

 自分としては、監督含め制作陣が、貪欲に笑いを取りに行っているところがすごいと思いました。僕らから演出の指示はないんですが、「ケバブサンドの流儀」では、体が牛で、顔がひろしの生き物が描かれたりして。ああいう表現は台本には書いていないですから(笑)。何もないところでも、挿絵などを活用して面白さを足しているな、という感覚でした。

ーー本作では、原作にないオリジナル演出も多数登場しており、いろいろな試行錯誤があったように感じました。

 アニメ化の脚本には、とにかく尺をどうするか、という課題がつきまといます。原作をそのままアニメにすると5分くらいの量ですし、コマとコマの間を補完することを考えると、文量的には倍以上に伸ばす必要がありました。

 ただこの作品には、もともとのページ数以上に膨らませることができるポイントがたくさんあると思っています。モラルさんも僕も、原作を読み込んだうえで、あとは書きながら膨らませていきましたね。

モラル そうですね。文字にして打ち始めると、「ここ意外と広がるな」「盛り上がるな」と気づくことが多くて。緻密に計算するというより、勢いで書いていました。

 たとえば第3話「から揚げの流儀」では、最後にRPG風の演出が登場しますが、あれも原作にあるコマを全体に広げていき、見せたいポイントを核にして広げていきました。

■オリジナルキャラクターの印象は「ぶっ飛んでる」

ーー四杉遥や高桐あきたけといったオリジナルキャラクターについての印象はいかがでしょうか。

 四杉遥はかなりぶっ飛んだキャラクターで、最初は扱いが難しいかもしれないという話をしていましたね。膨らませるのが大変だなと思い、全部モラルさんに担当してもらいました(笑)。

モラル そうですね。どこまで飛ばしていいのか、その幅を探りながら作っていきました。飛ばしすぎるとついて来られなくなるし、抑えすぎると物足りない。そのギリギリのラインを作るのが難しかったので、最初の登場から徐々に飛躍させていきました。

ーー四杉遥にくらべ、高桐あきたけは爽やかな好青年と、比較的フラットなキャラクターですよね。

 高桐は遥と比べると、オリジナル要素を加えやすかったです。グルメ知識を原作以上に足したり、ひろしのもうひとりの後輩・川口と対をなすような設定を作りました。あくまで、現実にいそうな人物像をベースに膨らませることができたと思います。

 

<プロフィール>
森ハヤシ(もり・はやし)
1978年生まれ。コントグループWAGEとして活動をスタート。2005年に解散後、ドラマ、アニメ、映画などの脚本を手掛ける。主な作品に映画『でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男』、『SANDLAND』、ATPドラマ部門最優秀賞『クラスメイトの女子、全員好きでした』、日本民放連最優秀賞作品『チャンネルはそのまま』など。

モラル
1987年、福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。スピーディーな展開に怒濤のギャグを詰め込むコメディを得意とし、テレビドラマ、舞台、アニメーションなど、様々な媒体で幅広い執筆活動を行なう脚本家。主な執筆作に劇場アニメ「映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐⻯⽇記」、映画「裏社員。 スパイやらせてもろてます」、ドラマ「婚活バトルフィールド37」、「スタンド UP スタート」、「極主夫道」など。

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