■ループの恐怖描く「黒い流れ星編」

 漫画やアニメでテーマにされることも多い「ループ」の恐怖を描いた「黒い流れ星編」も人気の高いシリーズだ。ある日、「願いを叶えてくれるけど、なんか嫌な気持ちになる」という黒い流れ星の噂をハチワレから聞いたちいかわ。それはそれとして、大きな音の出る目覚まし時計を買いに行ったり、みんなで写真を撮ったりお菓子を食べたりと何気ない日常を過ごすが、ちいかわは日常が繰り返されているような妙な感覚に陥る。

 ハチワレはそれをデジャブだといい、ちいかわに占い師になれると楽しそうに言うが、その原因は、買った目覚まし時計にくっついた黒い流れ星の力だったのだ。

 ある日の夜、友達と過ごす楽しい毎日に「こんな日がずっと続きますように」と願ったちいかわとハチワレ。黒い流れ星はそれを叶えたようだが、ただ一人ループを繰り返す毎日に、ちいかわの心は折れそうになる。

 ループを止めようと協力してくれるハチワレやうさぎもループの輪からは外れることができず、一人だけ記憶を持った状態で日々を繰り返すちいかわ。ついに、ネットで黒い流れ星について検索し「オキシ漬け」が有効だと調べて、一人で流れ星に対峙することとなる。

 上述の通り、ちいかわの漫画は1ページずつ更新されるので、1話だけを見ると話が成立しておりループを感じさせないのもナガノさんの構成のうまさだ。ストーリーの始まり方もあまりに自然で、長編が始まるような気配もなかった。しかし、このストーリーには、じわじわと心を侵食するような恐怖がある。

 これと似たような長編に「悪夢編」というものもある。これは謎のバクににらめっこで負けたちいかわが毎日試験に落ち続ける悪夢を見させられるというストーリーで、なかなかリアルで嫌な気持ちになる。しかも物語のラストでは、他の長編につながるような展開もあるので、気になった人はぜひチェックしてもらいたい。

 ダークな長編シリーズでは、最もか弱いちいかわが一人で困難に立ち向かう展開が多いように思える。必死に生き抜くちいかわを見ていると「がんばれ」と応援したくなるが、そんな気持ちになるのも『ちいかわ』の魅力だろう。

 映画の「セイレーン編」がどんなダークな展開となるのか……。ちいかわたちにはかわいそうだが、ダークなナガノワールドをつい期待してしまう。

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