12月9日の最終回を目前に盛り上がりを見せているドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)。『TVer』の再生回数がTBS全番組の記録を更新する(※1)人気ぶりだが、その背景には、ぞんざいな口ぶりのタイトルと反して、誰も断罪せず、登場人物それぞれがゆるやかに価値観を見直していくという作品全体に漂う優しさがあるといえる。
脚本を担当するのは、岸田國士戯曲賞を受賞した劇作家でもある安藤奎さんだ。本作が初の連続ドラマ脚本となる安藤さんに、W主演の竹内涼真さんと夏帆さん、それぞれのキャラクターについてうかがった。
【全2回の後編】
――夏帆さんと竹内涼真さんがW主演を務める本作で、特に竹内さんは代表作のひとつとなったともいえるハマリ具合で話題になっています。竹内さん演じる勝男はモラハラながらどこか憎めない愛らしさが魅力であり、視聴者の心を掴んでいますよね。
安藤奎さん(以下、安藤):勝男は、自分では当たり前だと思っていた価値観のまま生きてきて、気づけば周りから取り残されてしまった人、というイメージで描きました。根っこに悪意がないぶん、どこか憎めない存在にしたいと思っていました。
そんな勝男を竹内さんが演じることで、チャーミングさや面白さが一気に加わっていて、本当にすごいと思います。どんな状況でも前向きに進んでいけるような打たれ強さがあって、それがときに笑いにもつながる。勝男の魅力を大きく広げてくださっていると感じています。
――勝男を「憎めない存在」にするために、どんなことに意識しましたか?
安藤:勝男の「こうあるべき」みたいなこだわりが、おもしろく映ったらいいなと思っていました。私自身、人のこだわりがけっこう好きで、その人らしさが出る部分だと感じています。だから、いろいろなところにこだわる勝男の姿を楽しんで書きました。
――そんな勝男をきっかけにして、勝男ファミリーも変化していきます。同時に、安藤さんの脚本からは勝男ファミリーへの愛も感じます。この家族にどんな思いを持っていますか?
安藤:家族の思いって、一方向から見るだけではわからなくて、角度を変えると全然違う面が見えることもあると思うんです。だからこそ、多面的に見える家族として描きたいと思っていました。
勝男の家族は、特別な設定の家庭ではなく、誰の家にもありそうな一面を持つ人たちだと思っています。自分はそうなりたくないと思っていたのに、気づけば同じことをしていたり……そういう感覚はいろんな人に通じるはずで、そこを大事にしました。勝男ファミリーも、誰かが一方的に正しいとか、逆に悪者になるような描き方はしたくなくて、それぞれに理由があり、良い面も弱さも持つ人たちとして描きました。
――同じく、夏帆さん演じる鮎美の、自分を変えようとする姿に共感が集まっています。鮎美はどんなことを意識して描きましたか?
安藤:鮎美はもともとしっかりしていて、なんでも自分でできる強さがあるのに、自分がどうしたいのかを見失ってしまった人だと思っています。だからこそ、自分を変えようと一歩踏み出す姿がより切実に見えるように、控えめさや繊細さを大事に描きました。
――鮎美は、勝男と付き合っていたときや勝男と別れたあとに付き合うことになるミナトくん(演:青木柚さん)相手に、言いたいことを言えずに我慢する姿がフィーチャーされてか、サブタイトルで「忍耐女」と表されたこともありました。一見、「我慢するだけの察してちゃん」に見えそうなのに、決してそうは見えません。とても繊細な匙加減が必要だったと思いますが、鮎美の表には現れない芯の強さを描く際、どんなことを意識しました?
安藤:鮎美は、一見すると我慢してしまうタイプに見えますが、内側にはちゃんと「こうありたい」という意思がある人だと思っています。だから、受け身に見えすぎず、言うべきところはきちんと言える人物にしたいと考えました。
そして、夏帆さんの持つ優しい雰囲気の中にも、しっかりとした芯があって、その存在が鮎美ととても重なりました。夏帆さんが演じることで、鮎美の静かな強さや温かさが自然ににじんでいて、本当に素敵だと思いました。控えめな中にも芯がある感じがとても魅力的で、鮎美というキャラクターがより立ち上がったと感じています。
――作品全体を通して、執筆中に苦心した箇所はありましたか?
安藤:第1話の別れてすぐの鮎美と勝男の会話は、「別れた直後の2人は何を話すんだろう」と立ち止まってしまいました。気まずさや未練、まだ整理できていない気持ちが混ざる場面なので、それをどう言葉にするかは悩みました。
―― 一方で、ミナトくんとは、別れたあとの第8話で再会し、すっきりとした歩み寄りを感じて気持ちの整理がついている印象を受けました。鮎美にとってミナトくんはどんな存在だったと捉えていますか?
安藤:鮎美にとっても、ミナトくんにとっても、自分を見つめ直すきっかけになる存在だったと思っています。鮎美がミナトくんと出会って気づきがあるように、ミナトくん自身にも鮎美との関わりから生まれる気づきがある。そんな相互の影響がある関係を意識して書きました。
青木柚さんが演じるミナトには、優しさの中に、ある一定以上は踏み込ませないような空気があって、その絶妙な距離感がとても魅力的でした。そうした雰囲気が重なることで、ミナトという人物の輪郭がより豊かになり、作品の中でも独自の存在感を放つキャラクターになったと感じています。
――最後に、本作を楽しんでいる視聴者にメッセージをお願いします!
安藤:いつも本作を見てくださり、本当にありがとうございます。勝男や鮎美たちを通して、どこか皆さんの生活にも寄り添える瞬間があればうれしいです。最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
※1 「TVer DATA MARKETING」にて算出(各話配信開始から8日間の再生数)
【プロフィール】
安藤奎(あんどう・けい)
1992年、大分県生まれ。2016年、「劇団アンパサンド」を旗揚げ。主宰として作・演出を務める一方、ドラマやコントの脚本を手掛ける。2024年には『歩かなくても棒に当たる』で第69回岸田國士戯曲賞を受賞。


