■元サヤもよさそうだけど…成長した二人が下す決断は?

 『じゃあ、あんたが作ってみよ』の原作漫画は現在も連載中で、物語はまだ結末を迎えていない。ゆえに、ドラマ版ではオリジナルエンディングが描かれることになるだろう。この点を踏まえると、第9話で描かれたふたりの関係性の変化が意味深げに映る。

 たとえば勝男の告白を受けた鮎美の表情は、驚きと戸惑いが混じったように目をきょろきょろさせながらも、口元には小さな笑みが浮かんでいた。現在の鮎美は、彼をモラハラ男から「全力不器用男」へと評価を変えており、「今のほうがいい」とも発言している。表情に込められた真意はまだ読み切れないが、少なくとも彼を否定している様子はない。

 そんなふたりの様子に、これまで少しずつ縮まってきた距離感もあいまって、視聴者からは「復縁してほしい」という声が多く上がっている。

 なにしろ原作には、別れたふたりが再会して行動をともにしながら距離を縮めていくような展開はほとんどない。これらの描写はドラマオリジナルの構成であり、復縁への布石と捉えることもできる。

 もし復縁するとすれば、思考をアップデートした勝男は今までとは違って台所に立ち、鮎美の料理を手伝ったり自分で作ったりするようになるだろう。自分の意見を言えるようになった鮎美もまた彼にちゃんと考えをシェアし、気持ちを共有し合って生活を送っていくはずだ。対等な関係を築くこの未来も、第1話から二人を追ってきた視聴者にとっては嬉しい結末である。

 一方で、ふたりの恋の行方は復縁だけとは限らない。というのも、本作は勝男と鮎美の精神的な自立と価値観の成長を描く物語だ。悲劇に見舞われ、挫折や苦労を味わいながらも、ふたりはそれぞれ心と向き合いながら自分の足で立つ力を身につけてきた。ゆえに、別の生き方を選ぶ未来も十分にあり得る。

 特に「男性に受け入れられて守られること」に軸を置いて生きてきた鮎美は、ミナトとの関係を通じて自己肯定感を育て、自分軸で生きる大切さに気づいた。そして、失敗こそしたものの料理という自分の好きなことを仕事にするため行動に移しており、すでに自立への一歩を踏み出している。

 勝男もまた、第8話で母親に「ひとりで大丈夫になりたい」と告げ、自分の力で生活することを望んでいた。そして料理を覚えて家事をこなし、さらに会社の人々や椿との関わりの中で他者への思いやりが芽生え、価値観を押し付けない接し方を学んでいる。

 その点を踏まえると、鮎美が「自分の人生を自分で作っていきたい」と告白を断り、勝男もそれを受け入れて友人として隣にいる道を選ぶ可能性も考えられる。

 とはいえ、それは互いの価値観の変化を理解し、好意を示したうえでの答えだ。ゆえに、告白を断ったとしても関係が悪くなることはないだろう。ふたりは恋人という形にこだわらず、大切な人として助け合い、支え合いながらそれぞれの道を歩いていくのではないだろうか。温かみのある結末を考えるなら、こちらの未来もまた素晴らしい終わり方だ。

 本作は、「復縁」か「別れ」か、という二択にとどまらず自分の人生をどう選び取るかという大きなテーマを投げかけてくる。最終回でふたりがどの道を選ぶのかはまだ分からないが、確かなのはこれまでの物語がふたりの成長の証であり、彼らが自分の人生を切り開く強さを手に入れたということだ。だからこそ、どんな結末を迎えたとしてもきっと温かい余韻を残してくれることだろう。

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